《1018》 「抗がん剤を止めたい」と相談に来た患者 [未分類]

Aさん(61歳)は呼吸困難を訴え、ある病院を受診、
精査の結果、Ⅳ期の肺がんと診断されました。
1年間に3度の抗がん剤治療入院を繰り返しました。

Aさんは特別養護老人ホームの介護士として働いていました。
リーダー格として、後輩スタッフに慕われているようでした。
職場には病気を隠して入院期間以外は仕事を続けていました。

ある日、Aさんが、私の外来を受診されました。
「抗がん剤治療を止めたい」との相談でした。
「もう疲れたし、薬が効かない」と言われました。

レントゲンを撮ると片方は真っ白で、もう片方も半分真白でした。
白とは、胸水が貯まっていることを意味します。
呼吸している肺の面積は、4分の1程度しかありません。

しかし、Aさんの顔色はどう見ても健康的で病人に見えません。
息切れも無く、レントゲンの所見と合わないのが不思議でした。
自転車と電車を乗り継いで、遠方の職場に通勤されていました。

Aさんは1年以上に及ぶ抗がん剤治療を受けても、大量の胸水が
貯まり、腫瘍マーカーの上昇が止まらないことに観念した様です。
病院では、何度も胸水を抜いたそうです。

「抗がん剤を止めたいの。病院の先生はもっと続けろと言うけど」
そう切り出されて、咄嗟の返事をどうしようかと迷いました。
顔見知りなので「止めてもいいんじゃないかな」と答えました。

翌日、再びAさんが現れて「止めてきました」と言いました。
仕事を止めたかと思いきや、抗がん剤治療を止めたのでした。
「治療を止めたので病院に行く必要がなくなった」と笑いました。

「これで思う存分、仕事に専念できる」との言葉に驚きました。
余命は長くないし、療養生活に専念されるのかと普通は思います。
しかしAさんは特養での仕事を、夜勤も含めて続けられました。

私は、「3カ月ももたないな」と感じていました。
1週間に1度くらい、疲れたらステロイド入りの点滴に来られました。
夏に始まったAさんとのご縁は、年末まで続かないとの予想でした。

(続く)

【PS】
昨夜は、ある夜間高校で「不眠症」の特別授業をしていました。
夜間高校だけあって、上手く眠れない子供たちが多いのです。
不眠症や睡眠薬についての基礎知識について、お話しました。

不眠は、高血圧や糖尿病や乳がんや大腸がんの原因になること。
さまざまな社会生活に影響することもお話ししました。
「不眠は万病の元。もっと睡眠に関心を持とう」で閉めました。

しかし寝ている子供達もいました。
また、ほぼ全員が睡眠薬の服用経験があることに大変驚きました。
病気の予防は、子供の時から睡眠からやらないと、と感じました。