《1023》 沖縄移住を決意した膵臓がん患者 [未分類]

Bさん(54歳、女性)が、膵臓がんの相談で受診されました。
みぞおちに痛みを感じて、ある病院を受診。
精査の結果、Ⅳ期の膵臓がんと診断されました。

がんセンターでは手術適応は無いと判断され、ジェムザールの
点滴による外来抗がん剤治療が開始されました。
1ケ月後からは、TS-1の飲み薬も始まりました。

腫瘍マーカーの値は、抗がん剤治療で約半分まで下がりました。
そうした治療を半年、続けてきましたが、最近は
食欲が無くなり、体重が7kgも減ったそうです。

「このまま抗がん剤を続けるべきか?」という相談でした。
よく聞くと、直近の腫瘍マーカーの値はほぼ横ばいとのこと。
「もう疲れた」とも、言われました。

こうした微妙な相談にわざわざ来られた場合、私は
「休むという選択肢もあるのでは?」と提案します。
抗がん剤は、延命治療にすぎないことも説明します。

Bさんはさらに数人の専門医に意見を聞いて回られたようです。
ある膵臓がんの権威は、「抗がん剤を止めた方がいい」と言われ、
別の専門医は「続けたほうがいい」と真逆のことを言われたとのこと。

こうした場合は、患者さんは私のような非専門医の意見も
聞いてみたくなるのでしょうか。
どうして町医者である私の元に相談に訪れたのでしょうか?

結局Bさんは、私の「休んでもいい」という選択を選びました。
ある日を境に、抗がん剤治療をピタっと止めてしまいました。
「止めると決めたら一気に気が楽になりました」、と言われた。

私は「休む」提案をしたのですが、Bさんは「止める」
という言葉を使いました。
同時に長年勤務してきた一流商社も、スパッと退職されました。

私と同年代の女性ですが、竹を割ったような性格なのです。
5回目に外来に来られた時には死を覚悟していると感じました。
診察室から去り際に、何気ない口調で驚くことを言われました。

「長尾先生、私、これから沖縄に移住するの」
「ええ?沖縄?!」

(続く)

PS)

昨日は、東広島市に平穏死の講演で呼んで頂きました。
今週、4つ目の講演です。
600人もの市民の方に、熱心に聞いて頂きました。

親の平穏死を看取った子供さん、訪問看護師、在宅医を
交えたその後のシンポジウムも、とても感動的な時間でした。
在宅療養の良さと終末期に点滴を控えることを、伝えました。

東広島市は神戸からだと広島より遠かったのは意外でした。
しかし賀茂鶴の美味しい造り酒屋のある古くていい街です。
またゆっくり訪れたい、もうひとつの広島だと思いました。