《1025》 子供との時間を優先して抗がん剤中止 [未分類]

Cさん(28歳)は胃の痛みで当院を受診されました。
スキルス胃がんと診断されましたが手術不能とのこと。
入院と外来で3月間、抗がん剤治療でがんと闘ってきました。

しかし、体重は減少するばかり。
在宅での栄養剤の点滴を依頼されました。
同時にがんの痛みを取ることもお願いされました。

Cさんはバツイチですが5歳になる男の子と暮らしていました。
病院に抗がん剤を打ちに行くと子供と遊べないのが悩みでした。
抗がん剤治療の間は、子供を実家の両親にあずけていました。

しかしある日、Cさんは抗がん剤治療を全部止めてしまいました。
飲み薬の抗がん剤を含めて、副作用が相当辛かったようです。
中止後は実家で両親の援助も受けながら生活するようになりました。

私たちは、商売をされている実家に訪問するようになりました。
お店の奥に入ると、Cさんは寝ころんで子供と遊んでいました。
「子供と遊んでいるのが一番楽しい時間なの」と笑顔も出ます。

Cさんは、抗がん剤より子供との時間を選択したようでした。
私は在宅主治医として、いい選択をされたと心で思いました。
連日、看護師と麻薬を中心とした在宅緩和ケアを行いました。

「子供にどう説明したらいいのか?」と何度も相談されました。
たしかに無邪気に遊ぶ子供を見ていると何も言えなくなります。
それでもCさんは死を覚悟しながら、子供と遊んでいたのです。

抗がん剤だけでなく「入院は絶対にしない」とも言ったのは、
当然、子供さんと過ごす時間を長くするためです。
抗がん剤が効かなかったことも中止の決断を早めました。

結局、抗がん剤を止めてから2ケ月後に実家で旅立たれました。
ほんとうに、あっ、という間でした。
年齢が年齢だけに、両親や周囲は本当に辛い辛いことでした。

Cさんは、子育てがまさに生きる支えでした。
抗がん剤を中止して捻出された時間を全て子供に費やしました。
もし子供がいなければ、もっと抗がん剤をやっていたかもしれません。

実は、子供のために抗がん剤を早めに中止した母親は
これまで何人もいました。
子供がまだ生後2カ月だというDさん(25歳)も、そうでした。

妊娠中に進行したがんが発見されましたが、無事出産できました。
赤ちゃんと一緒に退院した日から、在宅緩和ケアが始まりました。
Dさんは自分より子供の命を選んだのか、抗がん剤はしませんでした。

子育てと抗がん剤の止めどきは、一見関係無いように見えます。
しかし現実には、子育てのために外来抗がん剤治療を諦める母親
もいます。

実は、私は在宅で抗がん剤の点滴をしたこともあります。
しかしあくまで例外。
一人で外出できない患者さんにはその適応が無いと思います。

飲み薬の抗がん剤は、悩ましいところです。
病院からの指示通り最期まで飲もうとするひとや、
途中で止めるひとまで、実にさまざまです。

【PS】
関東はまた、雪ですね。
関西は、雨です。
その雨に濡れながら、深夜も往診していました。

短い睡眠の間に、何度も電話が鳴ります。
一晩に10回以上起こされることもあるので、
結局、寝ているのかどうか分かりません。

深夜に何度も家を出たり入ったりするオッサンは、
不審者そのものですが、それが仕事です。
冬は、真夜中の緊急出動が増えます。

明日は、東京・池袋で講演しています。