《1026》 最期の最期まで抗がん剤を続けた患者 [未分類]

抗がん剤を自らの意思で中止した方を4人紹介しました。
偶然なのですが、全員、女性でした。
男性のほうが、真面目というか律義なような気がします。

Eさん(83歳、男性)は、肺がんの外来抗がん剤治療を
3カ月間、続けてきました。
しかし体力が低下し、当院に在宅医療を依頼されました。

自宅で元気をつける点滴をしながら、息子さんが病院に
抗がん剤を打ちにいく日が、1カ月くらい続きました。
抗がん剤を打ったあとは、かなり衰弱されます。

背中に強い痛みを訴えるために、痛み止めを使おうとしました。
麻薬の説明の中で「緩和医療」という言葉を使ったら激怒されました。
息子さんは、「緩和医療」=お手上げ、と信じていているようでした。

「先生は諦めているみたいやけど、俺は絶対、諦めへんからな!」
これが息子さんの口癖でした。
私たちは、麻薬と酸素と点滴を在宅で続けました。

在宅開始2カ月後、Eさんは、徐々に衰弱しました。
痩せこけて、自分で歩くこともできなくなりました。
1日中、ウトウト寝ています。

もうそろそろ外来抗がん剤治療を中止したほうがいい、と思いました。
しかしそんなことを言えば息子さんが烈火のごとく怒るので言えない。
病院の先生が中止を宣告してくれるだろう、と勝手に思っていました。

息子さんは、ぐったりしたお父さんを車に乗せて、
外来抗がん剤治療を続ける日々でした。
結局、自宅で看取る前日まで、外来抗がん剤治療を続けました。

亡骸を見ながら、「さぞかし苦しかったでしょうね」と思いました。
息子さんは、「先生、きついこと言ってごめんな。本当は、緩和医療
の意味は分かっていたけど、親父と俺は最期まで闘いたかったんや」

そう謝りながら、泣いていました。
息子さんの想いは、私も分かっていました。
親父を愛する気持ちがとても強い息子さんでした。

抗がん剤を自分の意思で途中で中止する人もいれば、
家族の意思で最期の最期まで続ける人もいます。
町医者をしていると実にいろんな患者さんを見ます。

【PS】
夜中も定期的に起こされる日々です。
ほとんどが、施設からの電話です。
施設には医療がないのでそうなります。

入所者の発熱に職員のほうがパニックになります。
心配ないですよ、と言ってもまたかかってきます。
そんなこんなでゆっくり寝てみたいのが願いです。

今日は、東京・池袋で講演です。
眠い目をこすりながら、胃ろうと平穏死の話を
してきます。