《1037》 抗がん剤を飲みながらホスピスへ [未分類]

Pさん(76歳、男性)は、腎臓がんが全身の骨に転移して
歩けなくなり、当院に在宅医療を頼まれました。
4カ月間自宅で緩和医療を行い、まず快適に過ごされました。

がん拠点病院の泌尿器科から分子標的薬が投与されていました。
Pさんは、そのお薬だけは、大切に飲まれていました。
家族も、そのお薬をもらいに病院受診を継続されました。

長期間に及ぶがんの在宅介護は家族にも大きな負担になります。
そのうえ、Pさんは、不安と痛みが強くなりました。
大量の麻薬と痛み止めを使いましたが、充分とは言えませんでした。

Pさんのご家族は、ホスピスへの入所を希望されました。
紹介状を持たせて受診させ入院予約をして来られました。
2週間後、ホスピスから、入院OKとの連絡が来ました。

Pさんは、ホスピスに入っても分子標的薬だけは
続けたいと強く希望されました。
私はそれは可能だと思いますよ、とお話ししました。

Pさんとは、それが最後の会話になりました。
ホスピスで充分な緩和ケアを受けて3週間後に旅立ったそうです。
分子標的薬も最期まで飲めました、と後でご家族から聞きました。

在宅療養を諦めてホスピスに入院する方も時々おられます。
私たちは、患者さんとご家族の希望に寄り添うだけです。
Pさん自身もご家族も、大変満足されていました。


【PS】

昨日は、日本死の臨床研究会・近畿支部大会で
特別講演をさせて頂きました。
「平穏死と看取りの場所」という演題でした。

午前中のプログラムは、私の講演だけ。
午前中から、おおっぴらに死の話ができるのは、
この研究会ならでは。

「死」という名前がつく学会や研究会は極く少数です。
その割には多くの市民の方も来られているようでした。
お世話になっている施設ホスピスのスタッフのお顔もありました。