《1068》 測るから気になるバイタルサイン [未分類]

休日も、朝から深夜まで施設の介護職員からの
携帯電話が鳴りやみません。
「ああ、またか」、という感じです。

発熱、便秘、高血圧、頻脈、低酸素血症・・・

「それで本人さんは、どんな様子ですか?」

「本人は、いつもと同じで元気です。
 胃ろうの注入も問題なかったし」

「じゃあ、心配ないでしょう。少し様子をみてください。」

「え? 長尾先生、放っておいて本当にええんですか?」

「自覚症状が無いし、寝たきりで意思疎通ができず、
 胃ろうもしているので、もはや治療の余地はないと思いますよ。
 家族も入院を拒否して、そこでの看取りを希望していますから」

「でも、心配で我々、介護職員は眠れませんが」

「じゃあ、睡眠薬を処方しましょうか?貴方に」

「いや、そういう問題じゃないんですが。
 長尾先生は、心配じゃないのですか?」

「心配と言えば心配やし、心配していないと言えば
 心配してないかも。何と言っても、年らからな。
 一言でいうたら、仕方ないんとちゃうのかな・・・」

「はあ・・・」

「何度も聞きますが、患者さんの様子はどうですか?」

「患者はいつもと同じです」

「じゃあ、やっぱり様子を見ていいんとちゃうかな」

「はあ・・・・・・」

こんな会話が、毎日、何度も繰り返されるのが、
施設における在宅医療なのです。
本当の家じゃないので、「在宅もどき」ですが。

もし、バイタルサインの変化に全部反応していたら、
毎日、何度も施設に往診をしなければなりません。
しかし、そんなことはできませんし、不要です。

そうだ、バイタルサインを測らへんかったらええんや!

電話が鳴る回数を減らすには一番効果的でしょう。
だからそう説いて全国を回っていますが、
回数は減るばかりか、増える一方。

どうやら介護職員の「病状」は軽くはないようです。