《1071》 「順調」先生にあこがれる [未分類]

昨日は、東京の母校で平穏死の講演をしました。
大学病院といえば、もっとも平穏死に遠い場所。
ハラハラドキドキしながらの、講演でした。

母校を卒業して、すぐに大阪に帰りました。
そして医師免許を頂いたその日から2年間、
野戦病院で昼夜を問わず、よく働きました。

夜も、救急車が何台も来るような病院でした。
また終末期の患者さんも大学から沢山依頼されました。
新米ホヤホヤの研修医にはそれはもの凄い研修でした。

夕方に出勤される40歳代の先輩医師がいました。
朝が苦手なその先生は、昼と夜が逆転していました。
しかし新米の私には夜にいろんなことを教えてくれる上司。

「順調」先生、とは私が勝手に付けたあだ名です。

看護師が何を報告しても、「順調」としか言われないからです。

「先生、血圧が下がりました!」
「順調・・・」

「先生、呼吸が苦しそうです!」
「順調・・・」

「先生、息が止まりました!」
「順調・・・」

靴のかかとを踏みつけて歩くその先生が
慌てている姿を見た記憶がありません。
いつも深夜を中心に悠々と仕事をされていました。

あれから30年近くたち、あの先生と同じことを
老人施設の介護職員からの電話に返してみました。
何を言われても、「順調・・・」と。

介護職員は、絶句していました。
慌てて「様子を見て下さい」、と言い直しました。
どうも「順調」先生には、まだ修行が足りないようです。