《1083》 家族は分かっていた ―― 施設入所者の転倒(その2) [未分類]

真夜中に転倒した施設入所者を診るため、車を走らせました。
都会では深夜でもスピード違反の取り締まりがあり注意です。
というのも午前零時を回っても、夕食にありつけなくなるから。

到着すると転倒した人はベッドに寝て、わめいていました。
左肩を右手で押さえて顔をしかめながら「痛い、痛い」と。
肩を触ると相当に腫れていて手を動かすと激痛があります。

肩関節の骨折が強く疑われます。
夜勤のスタッフが心配そうに集まってきました。
「すぐに救急車を呼ばなくてもいいですか?」と。

私は「大丈夫、命に別状ないからね」となだめました。
これまで骨折した人を沢山診てきました。
しかし骨折で死んだ人は見たことも聞いたこともありません。

なーんて世間話をしながら、ご家族の携帯電話番号を教えて頂いた。
深夜に遠慮しながら鳴らすも出ないので簡単な伝言を入れました。
30分ほどして、50歳代の長男さんから電話が返ってきました。

「お母さんがさきほど転倒して骨折をしているようです。
 普通は入院、手術だと思うでしょう? でも・・・」

ここまで言ったところで、長男さんは
「先生、分かっていますよ」と言われました。
長男さんとは会ったこともなく、話すのも最初です。

よく聞くと、2年前も転倒し、手首を骨折したそうです。
救急車で病院に入院したが、そのあとが大変だったそうです。
大声で「帰る、帰る」と騒ぐので家族が交代で付き添う事に。

結局、不穏(暴れたり落ちつかなくなること)が激しく
手術まで至らず、強制送還されたそうです。
それどころか数日間の入院で認知症は進むは歩行できなくなった。
「何のために入院したかサッパリ分からなかった」とのことです。

結局、手首の骨折は、そのままにしていたら、
3~4カ月で自然に治ってしまったとのこと。
骨折が自然治癒したのです。

実は、在宅医療を長年していると
骨折の自然治癒を何例か経験することになります。
決して珍しくはありません。

実は、長男さんは、経験で知っていました。
 ・骨折しても死なない事と
 ・骨折しても自然治癒する、ことを。

「先生、でもレントゲンくらいは撮ってくださいよ」とは
施設の職員の声です。必ず、そう言われます。
その声に応えるべく翌日レントゲンを撮ることにしました。

(続く)

《PS》
昨日は、朝から往診、在宅、外来、緊急往診のあと、
大阪と神戸で勉強会2つに参加しました。
終了と同時に電話が鳴り、またまた往診に呼ばれました。

在宅患者さんに付き添うこと2時間半。
結局、午前2時の夕食となりました。
とても休日とは思われない1日でした。