《0109》 心拍数と寿命 [未分類]

「ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学」(中公新書)という本は、
私にとって大変印象的でした。

哺乳類では、時間は体重の1/4乗に比例するという法則があります。
寿命が3年のネズミと70年生きる象はいずれも、一生の間に心臓が
拍動する回数は、ともに15億回前後と言われています。
ちなみに呼吸は5億回。

これらの数は、あらゆる動物に当てはまります。
したがって、ネズミも象も一生を終える感覚は、同じだそうです。
だから、ネズミの3年も、象の70年も、同じだというのです。

さて、医療の世界では、日々バイタルサインを測ります。
血圧、脈拍、体温、呼吸数……。
高血圧診療でも、血圧値のみならず、心拍数が重要なのです。
そう、心拍数は低ければ低いほどよいのです。

よく、「先生、私は脈拍が50しかないんです」と訊かれます。
私は、「よかったね、長生きパターンですよ」と言います。
キョトンとされたら、「マラソンのQちゃんの心拍数は35回だって」
と説明すると、納得されます。
まあ、30回以下でしたら、今度は病気(徐脈性不整脈)ですが……。

脈拍数から見ると降圧剤には、3種類あります。
脈拍数を上げるもの、下げるもの、そして変えないもの。

脈拍数が高い高血圧の方には、脈拍数を少なくする降圧剤が選ばれます。
拡張型心筋症という心臓の病気の薬物治療は、脈を遅くすることです。
脈を遅くして心臓の筋肉に休憩を与えて、心臓を長持ちさせようという発想です。

高血圧治療においても、似たようなところがあります。
我々も、血圧の値ばかりに、つい気を取られがちですが、時には脈拍数も
数えてみてください。
脈拍数は、誰でもどこでも簡単に測れる「余命の指標」でもあるのです。