《1111》 「海の見える病院」にみる愛 [未分類]

「海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実」
というノンフィクション小説を読みました。
著者の辰濃哲郎さんは朝日新聞社で活躍されていた方です。

宮城県石巻市立雄勝病院をご存知でしょうか?
恥ずかしながら私は、知りませんでした。

2年前のGWに、被災三県を全部回ったつもりでしたが、
雄勝病院には立ち寄っておらず気がついていなかった。
石巻赤十字病院や石巻市民病院は、知っていましたが。

雄勝病院は、雄勝弯に建つ小さな病院。
仙台から北東、60kmに位置します。

石巻の北側に大きく張り出した牡鹿半島の陰になって
目立たない小さな半島に雄勝町があります。

雄勝町は、05年に石巻市と合併しました。
石巻市街地から車で40分ほどかかります。

1514世帯、3994人が暮らす過疎の町。
高齢化率42%の、スーパー過疎地です。

04年に公開された緒方拳主演の「ミラーを拭く男」
という映画の舞台となった病院だそうです。

文字どうり「海の見える病院」が、勝雄病院。

さて、3月11日のあの日、病院には40人に入院患者と
34人の職員の合計74人がいました。

津波に襲われた時点で訪問看護に出かけていた看護師を除き、
職員28人が院内にいたが、助かったのはたった4人でした。

この勝雄病院の悲劇が、ほとんどマスコミに登場していないのか?
なぜ、2年間、語られてこなかったのか?

「命を守る病院で、どんな理由があるにせよ、災害で患者を死なせて
しまうことは許されない。それも40人も一度に亡くしてしまったの
だから、彼らの心には大きな負担となってのしかかっていた。
病院職員に多くも命を奪われている。一方で、津波に流されながら
助かった職員がいる。そしてさらに言えば、その職員は漂流中、
一緒にいた同僚と生死を分けている。生き残った職員たちは、
この二重三重の重荷を背負うことになった。・・・」
(あとがきから引用)

この本には、病院ゆえの悲劇が描かれています。
また描かれなかった故の悲劇も描かれています。

18年前の阪神大震災の時、私は市立芦屋病院に勤務していました。
あの時は、圧死とライフラインの寸断でしたので
東北の津波とは比べようがありません。

しかし不眠不休で働いた職員と、どこかへ逃げた職員がいました。
私は不眠不休で働きましたが、心の中で「死ぬかもしれないな」と
思いながら過ごしていました。

激しい余震が断続的に続いていたからです。
陸の孤島状態でした。
それでも「医療者なので仕方がない」と、どこか諦めていました。

雄勝の悲劇とは比べようがないですが、思わず18年前の
出来事を思い出しながら読んでしまいました。
本書には、病院で働くものの宿命も描かれています。

私が感動したのは、この悲劇を正確に再現した辰濃さんという
人のジャーナリスト魂と愛情です。
これほど正確な検証記録は、見たことがありません。

この本には、命を落とされた方、そして助かった方への
ジャーナリストの「愛」が溢れています。
淡々とした記載の中に溢れるような優しい眼差しを感じました。

新聞記者さんの視点、取材能力、そして感性は本当に
凄いものだとあらためて感動したことをお伝えします。

我々はこの本から何かを感じて何かの形で想いを届けると共に
自分自身が災害に備えることが大切だと思います。

素晴らしい本です。
是非、是非、映画化してほしいです。