《1145》 胃ろうを巡る混乱 [未分類]

昨日は、大阪で開催中の日本老年医学会で講演しました。
講演、といっても、ちょっと変わった形式でした。
デイベート、というセッションです。

テーマは、胃ろうの功罪。
胃ろう賛成派と反対派をそれぞれ演じてもらうという企画。
私は、「反対派」として「胃ろうの罪」の方を講演しました。

胃ろうとは、お腹に穴を空けて、もうひとつの口を造ること。
内視鏡を使えば、わずか15分で簡単に作成できます。
そして、今回の議論の対象は、老衰と認知症終末期のみです。

胃ろう賛成派の医師と、お互いに質問し合いました。
私は、敢えて結構な話もしたかと思います。
もちろん、2人がそれぞれの役割を演じ切るためです。

昨年は、別の研究会で、胃ろうの寸劇をしました。
その時私は「胃ろうを勧めるなにわ総合病院の内科部長」
の役を演じました。

今回は、その反対の役を演じたわけです。

私は「胃ろうという選択、しない選択 平穏死から考える
胃ろうの功と罪」という本を書いているのでどちらでも可。
今回も短い時間でしたが言いたいことの8割は言えました。

胃ろうがいいとは悪いとか、ではありません。
胃ろうは単なる、数センチのプラスチックでできた管です。
問題は、それを命のためにどう使うかなのです。

したがって、「胃ろうの功罪」ではなく、「胃ろうに関わる
医療スタッフの功罪」というべきなのです。
そして、アンハッピーな胃ろうがあるのも現実なのです。

本当は、胃ろうを入れる前に充分な説明が必要です。
しかし有無をいわずに入れられる胃ろうもあるようです。
また、入れた瞬間から、食べさせない医療者が多いです。

食べられるのに食べさせない、ヘンな医療。
食べたら肺炎を起こして死ぬぞと脅迫する医療。
嚥下リハビリや口腔ケアが無い、胃ろう生活。

すべて「胃ろうスタッフの罪」だと私は思います。
さらにアンケートを取ると9割の医師は自分自身
には胃ろうは希望しない、と答えています。

しかし、患者には胃ろうを付けています。
小さい時、人からされてイヤなことをするなと教わりました。
医者になれば、普通にそれをしている現実をどう考えるのか。

日本老年医学会のガイドラインでは、本人の人生のために
ならない胃ろうは中止しても構わないと書かれています。
しかし家族の希望で中止すると警察に捕まる可能性がある。

従って、一旦、始まった胃ろうは誰も中止できないのも現実。
リビングウイルを書いても、家族が反対すると中止できない。
親の年金をあてに生活している子供達が、少なくありません。

この2~3年の胃ろうの報道によって、何が変わったのか?

この1年、新たに胃ろうを造設するひとは減っています。
しかし、鼻から管や、中心静脈栄養は増えています。
それらより格段に優れている栄養法が胃ろうなのですが・・・

なんのことは無い、昔に逆行しているだけなのです。
正確には、逆行というより、退行です。
メデイアも我々も、胃ろうについて正しく伝えていないのです。

先日、TVで胃ろうに反対している医師の施設が報道されました。
その施設では、なんとみんな鼻から管を入れての人工栄養でした。
たしかに胃ろうは無いのかもしれないが、鼻から管とは・・・

呆れてしまいました。
市民には、胃ろう=悪、と刷り込まれてしまったようです。
もちろんこれは間違い、ハッピーな胃ろうが沢山あります。

ただし、末期がんには胃ろうは造りません。
しかし、非がんの終末期には、胃ろうという選択、
しない選択に必ずといっていいくらい迫られます。

胃ろうと聞いても自分とは関係ないと思う人がほとんどです。
しかし現実には、2人に1人が、選択を迫られるのです。
それを想定しない人があまりにも多いことも、心配です。

すなわち、リビングウイルです。

しかしリビングウイルを口にしただけで、それを攻撃してくる
メデイアが多いのことにも、うんざりです。昨日もそうでした。
しかし今朝も貴重な時間を割いてメデイア取材に応じています。

リビングウイルについて詳しく知りたい方は、6月9日(日)
の午後に開催される第1回日本リビングウイル研究会に是非
来てください。第二部は、私が司会をしています。
http://www.drnagao.com/pdf/lecture/20130609livwill.pdf

胃ろうに関する混乱は、まだまだ続いています。

しかも課題が増えて、複雑化しています。
介護士が栄養剤を注入できる時代にはまだ時間がかかります。
みなさんも、是非、胃ろうについて勉強しておいてください。

今日の午後は日本ケアマネジメント学会で講演しています。
全国のケアマネさんに、終末期医療についてのお話をします。
昨夜は、全国のおもしろケアマネさんと、交流していました。