《1205》 精神科病棟から地域へ帰る [未分類]

「認知症患者」という呼び方が、だんだん使われなくなりました。
「患者」ではなく「認知症の方」とか「認知症の人」と呼びます。
時代とともに、病気の呼び名やイメージはどんどん変わります。

加齢に伴う認知機能の低下は本当に病気なのか、
認知症になっても尊厳を持った普通の人間じゃないか、
という考え方が根底にあるからです。

時に、暴力や暴言で周囲を困らせることがあります。
しかし本人にとっては、生きがいや誇りの喪失、不安や
孤独の表現型であったりお薬の副作用であることもあります。

従来(もしかしたら現在も?)、そのような方は家族の希望で
精神科病棟へ入院することがよくありました。
しかし入院することでいったいどれくらい病気が改善するのか?

生きがいや誇りが奪われたことを、何度も経験しました。
すぐに帰るはずだった家に帰れなくなった人もいました。
そのまま一般病院に転院し、亡くなられた人もいました。

日本には約35万床の精神科病棟があるそうです。
かつてその多くは統合失調症の方が入院されていました。
しかし現在は統合失調症の方は積極的に地域に帰っています。

地域で暮らす方が、病気の経過にも本人にとっても、いいようです。
私のような町医者にも紹介状を持った統合失調症の方が来院されます。
最初は精神科専門の訪問看護師が付き添って来ますが、すぐに不要に。

みるみる地域に順応して、案ずるよりずっと普通に生活されています。
日本の精神科入院は先進諸国平均の17倍、平均300日と長期です。
なかでも認知症の平均入院期間はその3倍の944日に及ぶそうです。

認知症の人も精神病院から地域に帰るという動きが活発になっています。
不穏な行動のため一時入院しても、短期間で済むことも増えてきました。
そして認知症の方が、地域に帰ってきたあとの医療はどうなるのか?

元気な統合失調症の方の多くは外来通院されますが、
認知症の方は高齢化のため通院が困難な場合が多く、
また通院を嫌がる方も少なくありません。

「認知症は治らないから、医療なんて要らない」と言われたことがある。
たしかに、認知症のお薬の効果に関しては、実に様々な意見があります。
私自身は多くの場合使いますが、大きな期待はしていないと説明します。

昨日書いたように、お薬よりも認知症ケアのほうを重視しています。
私が医療が必要だと思う時は、地域に帰って来られた認知症の人が
「腰が痛い」とか「熱が出てぐったりしている」といった場合です。

一方、介護保険を利用するには、必ず「かかりつけ医の意見書」が必要です。
すなわち、認知症の方が地域で穏やかに暮らすためには、痛みなどの苦痛
への対応と同時に、介護保険を利用するための両方の理由で医療は不可欠。

そのためには、もし外来通院が困難であれば「在宅医療」という選択肢も
あることを、このブログを通じて多くの人に知って欲しいです。
医師が訪問診療と往診を行う「在宅医療」を利用することができます。

認知症ケアの勉強会に参加している開業医が、どんどん街に出ています。
実際には訪問看護師さんが細かな認知症ケアについてを教えてくれます。
まずは、相性のいい在宅医選びから始めてください。