《1211》 「嫁が盗った」という濡れ衣の背景 [未分類]

今日は、被害妄想嫉妬妄想について考えてみましょう。
猛暑の中、恐縮ですが、認知症ケアについてのお話です。

不思議なものです。
女性が認知症になると「嫁が財布を取った!」と必ず言いいます。

こうした「もの取られ妄想」に代表される被害妄想は、
それだけで認知症だ!と分かるくらい特徴的な症状です。

嫁はそんな姑を「あなた、あんなお母さん早く施設に入れて!」
と泣き叫び、板挟みになった夫は戸惑いオロオロしています。

町医者をしていると、その仲介に入ることがあります。
また施設では、熱心な介護職員ほど泥棒にされます。
しかし男性認知症でそんなことを言う人はいません。

認知症の男性は「妻が俺に見えないところで浮気をしている」。
これは嫉妬妄想です。
実は被害妄想も嫉妬妄想も認知症の根幹に関わる言動なのです。

私たちはそうした妄想を、どう考えればいいのか?
またどんな対応が望ましいのか?

まず「もの取られ妄想」に隠された3つの背景を知りましょう。

  1. 近い記憶が失われて、最も身近なひとを犯人と思い込む。
  2. 年下の家族の世話になるという屈辱、不安、反発がある。
  3. 周囲が認知症ケアを理解しないまま対応することの誤り。

もの取られ妄想は、自立して頑張ってきた人や
他人に依存する状況を強く意識する人が陥り易いようです。
その裏には「介護されている自分を否定したい」という想いも。

実は妄想とは、「関係性を逆転しようとする試み」なのです。
「関係性の反撃」とも言います。
三好春樹さんに教えて頂きました。

そして介護する人が妻であった場合、嫉妬妄想となります。
閉鎖的な空間で妻が献身的に介護している場合に、
そのような言葉が出やすいことはよく経験します。

被害妄想や嫉妬妄想への対処法を考えてみましょう。
「勘違いだよ」、「盗むわけないじゃないか」と
いくら説明しても納得はなかなか得られません。

実は、「世話になっている」という負い目が
相手を加害者に仕立てる「妄想」の引き金
なっていることを理解すべき。
むしろその高齢者から何かを教わろう、という態度が大切。

たとえばカラオケや将棋の先生になってもらってはどうか。

「自分も他人のお世話をしている、
 対等な人間関係の中で生活している」
と実感できれば、妄想が一挙に軽減すること経験します。

また大切な物の保管場所を決めて目立つ名札を貼っておくのも一考。
盗まれたという言葉に対してすぐに否定しても、意味がありません。
「本当に無いか一緒に探しに行きましょうか」というと安心します。

すなわち「否定」ではなく「共感」する態度が大切
本人の主体性を尊重し、自信を回復させることです。
また介護を一人で抱え込まないことも、とても大切。

そのため、デイサービスなどを上手に利用することです。
介護者からは見えない人間関係を作ってもらうと、いい。
在宅介護では、いわゆる「抱え込み」が時々見られます。

人間関係を決して閉鎖的にせず、外に開いてください。
妄想は、一見、介護者には困ったものかもしれません。
しかし本人は妄想自体を忘れてしまい、根に持ち得ません。

心の奥底では「あれ?何か違うかな?」とは感じているので、
何かのきっかけで妄想が好転することもときどき経験します。
言われた嫁の方も、濡れ絹を決して根に持ってはいけません。