《1212》 幻視、万引きにどう対応する? [未分類]

「そこに男の人が立っている」とか
「壁に綺麗な色の虫が見える」と言われると、
介護者はドキッとします。

実際には、そんなものはありません。
こうした「幻視」といえばレビー小体型認知症が有名。
しかしアルツハイマー型認知症などでも、みられます。

アルコール依存症や薬物中毒でも、
また若い人でも病院の集中治療室に長く居ると、
やはり幻視が出てきます。

視覚は脳で認識していますから、
脳の機能が低下すると幻視が出やすくなります。

監禁された状況や、移動が制限された時、
また季節でいうなら日照時間が短い冬季、
時間帯でいうなら夜に起こり易い現象です。

こうした「幻視」に接した時に、
介護者はどう対応すればいいのか?
これは認知症の人のご家族からよく聞かれる質問。

私は、まず「本人には本当に見えているんですよ」と説明します。
ですから「そんなものはありません」とか
「気のせいですよ」とかいって否定しても、解決になりません。

否定や説得は、逆効果です。
むしろ幻視の訴えを、素直に受け止めてあげることでしょう。
もし人が居るというなら、その人に話しかけてみてはどうか。

もし虫が居るというなら、新聞紙で追い払ってあげましょう。
相手の世界に合わせることが大切です。
そうすれば本人は納得し、不安も軽減します。

介護施設などでもスタッフによく聞かれます。
多くの介護施設は認知症の人を閉じ込めがちです。
そうした状況に置かれたら幻視が見えるほうがむしろ当然。

スタッフは幻覚を気持ち悪がり、それを抑える薬を要求します。
強い向精神薬を飲ませるのは、最後の手段であると思います。

昼夜逆転への対応も同じこと。
昼寝ばかりしていたら夜に眠くならないのは当然。

夜中に「家に帰る、帰る」という人には、
「そうですね。でも今日は泊って下さいね」となだめる。
「お茶でも飲みましょうか」などと一応、受け止めます。

責めたり、無理やりに布団に押し込んだり、
理屈で説得しても昼夜逆転は改善しません。
日中はなるべく活動して、日光を浴びることが大切。

自然に眠たくなるようなリズムを作りましょう。
私は「放っておいたらそのうち寝ますよ」と説明します。

認知症の人の窃盗や万引きなどの「問題行動」への対応も同様。
万引きが反社会的行為であるという自覚はまったくありません。
ですから、その人を一生懸命に叱っても、全く効果はありません

一方、施設では介護スタッフが本人になり代わり、
また在宅なら家族が代金を支払いに行ってあげましょう。
予めお店に少量のお金を預けておくという方法もあります。

いずれにせよ幻視も万引きも、本人が悪いわけではありません。
脳がそうさせるのであって、仕方がないことだと思います。
その人の心の叫びを受け止めるという姿勢で対応できればいい。

以上は、あくまで私が思う個人レベルの対応です。
では、社会としてはどのように対応すべきなのか。
実際に損害が生じたとき、誰が責任を負うべきか。

そうした疑問への回答は、これから世論で作るものでしょう。
裁判官ではなく、市民が我がこととして判断していくこと。
認知症時代には、様々な判断が求められてくると思います。