《1221》 排泄とは人間の尊厳である [未分類]

誰でも年令とともにトイレが近くなります。
特に認知症が進むとトイレに籠る時間が増えます。
1日に30回位部屋を往復している方もおられます。

また日中の半分以上をトイレの中で過ごす人も。
それを見て「また行くんですか?」と呆れてはいけません。

排泄介助を頼まれたとき、「忙しいから」と後回しにしたり、
「そんなにすぐにはでませんよ」などと否定するのも間違い。
タイミングをみはからって、上手にトイレに誘導しましょう。

もし排泄を失敗した時に、責めてはいけません。
「お漏らし」も自然な老化現象なのです。
お漏らしには3つの場合があります。

まず尿意が分からない場合。
あと尿意が分かっていてもトイレの場所が分からない場合。
これは一見、徘徊のように見えることがあります。

さらに尿道括約筋がゆるんでいる場合。
失禁パンツやパッドの使用を試みます。
本人のプライドを尊重する態度、さりげない援助が大切。

汚れた下着を発見した時に、きつく問いただすのは間違い。
本人も既にショックを受けているのです。
たとえ場所が間違っていても叱ったり文句を言うのは逆効果。

トイレの場所を分かり易くしたり、廊下の照明をつけておく
といった工夫が大切です。
大きな字で「便所」とか「トイレ」と書いておくといいはず。

最悪なのは、お漏らしが多いからと言って
安易にオムツを当てることです。
オムツを当てたら認知症がどんどん進みます。

オムツを当てられた本人は不快でたまりません。
「本当かな?」と思う人は、試しに一度自分にあててみよう。
ついでにそのままベッドの上で、排便や排尿を試みてみよう。

おそらくできないでしょう。
たとえ頻回の排泄で介助に手間がかかっても、
トイレで用を足せるように支援を心がけたいものです。

一方、数回の失敗くらいで諦めてはダメです。
また昼間は大丈夫でも、夜間だけ失禁する人には、
ポータブルトイレを使うなどの工夫をしましょう。

私は在宅ホスピスに従事していますが、
末期がんの人はよく亡くなる当日まで、なかには
亡くなる3分前まで自力で排尿する人もいます。

便器で用を足しながら旅立った人もおられました。
排泄とは人間の尊厳である、と教えられました。
移動、摂食と並んで大切にしたい人間の尊厳です。

老衰や病気の終末期で排泄が上手にできなくなっても、
できるだけ本人に心理的な負担をかけない工夫をしたい。
自力排泄の素晴らしさを、是非知っておいてください。

ただし排尿時に尿道が痛めば、膀胱炎の合併が考えられます。
抗生剤を飲めば、かなり改善します。
過活動膀胱の要素が大きい場合は薬で劇的に改善する場合も。

現代医療の恩恵にあずかれる場合は上手にそれを利用したい。
恥ずかしがらずに泌尿器科医や在宅主治医に相談しましょう。

もしくは排泄ケアに詳しい訪問看護師、介護士、
ケアマネさんなどに遠慮せず相談しましょう。
排泄ケアは、認知症ケアの基本中の基本なのです。

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