私は外来の診察室で、中高年の女性に声をかける時に
「おかあさん」と呼びかける悪いくせがあります。
すると「私はあなたのお母さんではありません」と真顔で怒られた。
そこで「奥さん」に変えてみましたが、
今度は看護師に「いやらしい」と不評で、
これも止めてしまいました。
冗談はさておき、認知症の高齢者と介護者の関係は、
介護者が家族であってもなくても、
だんだん母子関係に近づいていきます。
自分の娘のことを、「お母さん」と呼ぶ場合をよく見ます。
また、さんざんいじめ倒してきた「憎きお嫁さん」のことを
「母ちゃん」と呼んでいる高齢女性を何度も見てきました。
呼ばれている当のお嫁さんは、戸惑い顔です。
なぜ、そんなことが起こるのでしょうか?
赤ちゃんはお乳を与えてくれるお母さんを全面的に頼ります。
その母親の顔が見えないと、不安になり大声で泣きだします。
母親の存在は赤ちゃんに精神的安定を与えています。
同じことが認知症の人の頭の中でも起こっているようです。
認知症ケアの現場をみていると、よくあることなのです。
先日も、施設の職員を「お母ちゃん」と呼んでいました。
さらには男性職員を「お母ちゃん」と呼んだ人もいました。
認知症の方は、最終的に自分を介護してくれる人を
「母性」として受け止めていることがよく分かります。
その母性とは、「無条件で受け入れるてくれる人」とか、
「あるがままを受け入れてくれる人」という意味なのか。
というのも「お父ちゃん!」はまだ見たことがないからです。