《1246》 結局、結核だったのですが・・・ [未分類]

昨日は、肺結核なのに肺がんと診断されて、
肺の一部を失った人のことを書きました。
実は、昔、こんなこともありました。

Bさんは、下の肺に淡く小さな影を指摘されました。
この方もいろんな検査をしましたが、結論が出ない。
肺結核なのか、肺がんなのか確定できませんでした。

そのような場合は、試験的に切除することがあります。
Bさんの場合、外科手術をすることになりました。
こうした方法を“診断的治療”とも言います。

Bさんには胸腔鏡手術がなされました。
病巣を含む肺の組織が切除されました。
しかし、肺がんではありませんでした。

術後、数日間は胸にドレーンという管を入れます。
万一、出血や感染などのトラブルがあった場合に
管から出て来る液体の性状で、病状が推定できます。

術後、4日目でした。
抜きかけたその管から白く濁った液が出てきました。
脂肪が混じっている胸水を“乳び胸水”といいます。

どうやら手術時に胸の中にある“胸管”というリンパ液が
流れる管に、小さな穴が開いてしまったようです。
食事をするたびに食事中の脂肪分が管から出て来る。

手術は完璧、なはずでした。
しかし、どこかで胸管に傷がついたのでしょう。
主治医は頭を抱えていました。

家族から容体が良くないと呼ばれ、見舞いに行きました。
持続吸引器に繋がれ弱った顔のその人が寝ていました。
辛いことに、絶食の指示が出ていました。

試しに食事をすれば、すぐに濁った胸水が出てきます。
そんな状態で1カ月近く、経過しました。
いわゆる、こう着状態が続きました。

家族の不安、本人の不安は、大きくなる一方でした。
私に聞かれても仕方がないのですが、聞かれました。
「いつになれば、この管が抜けるのでしょうか?」

主治医は、「分からない」と言われました。
私は、「よく分からないが、何かハプニングが起きて
 解決に向かうような気がする」と励ましていました。

怪しい占い師のような言葉です。
(実際、怪しいかも)
持久戦に耐えていたら、その先に勝利が来るような気がした。
なんとなくそれまでの経験からそういう言葉が出たのです。

大腸ファイバーでポリープを切除した時を思い出しました。
電気で切り取ったはいいが、組織がスネアという輪っかに
からまってしまい、ファイバーが抜けなくなる時があります。

しかし、抜かないと検査が終われないのでエイヤと輪っかを
引っ張って、組織から輪っかを切り離すことがあります。
これ以外に方法が無いのですが、結構勇気が要ります。

なぜか、そんな状況を思い出していました。
そのエイヤ!がいつのことになるかは分からない。
しかし、そんな終わり方が来るような気がしました。

結局、1カ月を過ぎた時、胸の管が自然に抜けました。
しかし、改めて管を入れ直すことをせず、そのままにしました。
きっとしばらくは濁った胸水がそのまま出ていたのでしょう。

しかし管が無いので、胸腔の外に出ることができないため
自然に穴が圧迫されて乳び胸水が止まったと推定されます。
なんでもいいから、止まってくれれば、それでいいのです。

かといって、医者が管を抜くことは、この状況ではあり得ない。
気がついたら自然に抜けていたので、それだったらそのまま
様子を見ようとなったことが、偶然のきっかけとなりました。

すなわち、待ったことが勝因でした。
その間、外科医たちは、開胸手術は考えませんでした。
待つことで、こう着状態にピリオドが打たれました。

結局、私の予言どうりになりました。
嬉しいような悲しいような複雑な気持ちでした。
なにせその病院を紹介したのは、私でしたから。

Bさんは、結局、2カ月間も入院されました。
一時はどうなることかと思いましたが、無事解決しました。
しかも、がんではなかったので、ほんとうに良かったです。

元はといえば、肺結核をがんじゃないかとの診断がはじまり。
しかしもし、肺がんであったなら、放置して死亡すれば、
まず家族に訴えられて、裁判になると負けるでしょう。

だから診断が確定するための手術をすることがあります。
診断が確定して、同時に治療にもなる。
もし、がんであれば、まさに一石二鳥です。

しかしがんで無ければ、患者さんは、ただの取られ損です。
そんなー、という人がおられるかもしれませんね。
仕方がない、としか言えません。

Bさんは今も元気に通院されています。
あの時のことは、今では笑い話です。
しかしその時は、生きるか死ぬか、でした。

昨日の話も今日の話も、一流病院での出来事です。
誤診や医療ミスだと言っているわけではありません。
私は傍観者でしたが充分な説明と同意の元での手術でした。

それでも、そのようなことが起こり得るのが現実なのです。

私が申し上げたいことは、
 ・それくらい結核とがんの鑑別が難しい場合がある、
 ・それでもそれを乗り越えようとするのが現代医学
  であり、常に医療の不確実性が伴う、ということです。

《PS》
今日は、関東地方は台風に気をつけてください。
実は、私はその中を、長野県に向かっています。
ある人に会うためです。(いつかまた書きます)