《1248》 「先生、隠さないで、はっきりがんと言って」 [未分類]

放射線被曝を恐れるあまり、胸のレントゲン検査を
いやがる人が時々おられます。
レントゲンとCTじゃ被曝量が2ケタ違うと説明します。

長引く咳や心肥大の程度を診る時にはレントゲンは必須。
たった1枚のレントゲン写真から
驚くほどたくさんの情報が得られます。

しかし、じっと見ていると患者さんは不安がります。

「何かあるのですか?」

「何もありませんよ。
 いやそれを確認するために、こうしてじっと見ているだけ」

翌朝、その方がまた来られましたが、泣いていました。
どうしてかな?と思い、涙の理由を聞くと
「先生、やっぱりがんなんですね?」ときました。

「だから違うって言いましたが」

「いや先生、もう隠さなくていいんです。
 はっきりがんだと言ってください」

「だからー・・・」

たった1枚の写真だから穴が開くほど良く見ないと
見落としがあるかもしれないのです。
年をとると集中力が鈍りますから当然です。

昔、がんセンターの部長先生と胸部レントゲン写真の
読影の勉強会をしていました。
毎月1回、土曜日の午後に医師会館でやっていました。

たった1枚のレントゲン写真だけで1時間議論するのです。
たくさんの医者が、1時間ほどよーく見ていると、
あらら、手遅れの肺がんが見えてきたという経験を何度かしました。

そうした経験があるだけに、慎重になるのです。
1枚の写真こそ怖いのです。
もし見落としたら、患者さんの命に関わります。

レントゲンで異常が疑われた人だけCTに進みます。
なんでもかんでもCTを取っていたら、それこそ
患者さんが嫌う放射線被曝をさせてしまいます。

もし穴が空くほど写真を見つめている医師を見かけたら、
病気があるのではなく、見落とさないように
しているんだなと思ってください。