《1289》 台風の中を看とりに行った [未分類]

台風の被害のほうは、大丈夫だったでしょうか?
今後の日本は、地震と台風の両方への備えが
必要だと感じた週末でした。

医学は病気や感染症だけでなく、
自然も相手にしていることを強く感じました。
自然災害への備えも立派な予防医学であるとも。

さて、そんな台風の中でも看とりがありました。
電車が止まったりで到着まで4時間もかかった。
雨に濡れながら深夜に患者さん宅に着きました。

すでに訪問看護師さんが身体を綺麗にしてくれていた。
私はいつものように、ただ死亡診断書を書くだけでした。
私が到着した時のご家族の様子はいたって平穏でした。

微かな笑みさえ感じました。
悲しみの中の満足感なのか。
達成感といった方がいいのか。

お孫さんが来て、おお泣きされたそうです。
それはよかったね、と言いました。
みんな満足しているとも言われました。

しばしの会話のあと奥さんがポツンと言いました。

「先生、私は冷たい人間でしょうか。
 少しも悲しくないのです・・・」
と悲しくない事を悲しむかのような口調で言いました。

「大丈夫、在宅で看とる人はみなそんな感じです」と。
私はいつも看とりを「泣き笑い」という表現をします。
病院の先生には「笑」が信じられないと言われますが。

きっと達成感、満足感がそう言わせているのでしょう。
その時は、悲しみの実感より達成感の方が大きいのです。
しかし時間の経過とともにジワジワと悲しみが来ます。

大雨の中、深夜に往診した甲斐がありました。
奥さんとそんな本音の会話ができたからです。
台風の中の往診を、味わうことができました。