《1360》 とても大きな早期胃がんを見つけた話 [未分類]

今日は、仕事始めですね。
今朝は冷え込みが強いようですが、
インフルとノロに負けないように頑張りましょう。

さて、胃透視や胃内視鏡をしていると
早期の胃がんが、時々見つかります。
多くが偶然とも言える出会いです。

これまでに自分でどれくらい見つけたでしょうか。
少なくとも100例は軽く超えていると思います。
進行がんより早期がんのほうが沢山見つかります。

さて、その「早期の胃がん」の「早期」とは何でしょうか。
早期とは、胃粘膜か粘膜下層にどどまってるがんのこと。
胃の壁をお家の壁に喩えて説明してみましょう。

粘膜とは部屋の内壁です。
その下には、薄い壁を支える板やコンクリート等があり、
それが粘膜下層に相当します。

家壁の中心部には鉄筋や断熱材がありますが、
それは、胃の壁の中にある筋肉層に相当します。
そして家の外壁のことを漿膜といいます。

そもそも胃がんは粘膜の表層、内壁から発生します。
断熱材から発生する悪性腫瘍は、肉腫と呼びます。
がんに比べて肉腫はかなり稀です。

最初は粘膜の一部の細胞ががんになり、やがて塊になり
がんの塊はやがて横方向か奥深くに拡がろうとします。
がんは必ずどこかに向かって増殖していきます。

また「拡がろうと」と書いたのは、がんによって方向性が様々だから。
一生懸命拡がろうとするのと、あまり拡がろうとしないものがあります。
がんの進展方向は、大きく分けると、横と縦の2方向があります。

横とは、粘膜の表面、内壁を這うことです。
粘膜を道路に喩えると、道の表面を這うこと。
横に広がる胃がんは、あまり怖くありません。

怖いのは、縦に縦に潜ろうとする胃がんです。
縦に潜るとは、粘膜層から筋肉層への方向です。
もっと潜ると、胃の壁を突き破り外に出ます。

壁の外側には漿膜という薄い膜があります。
ソーセージの外の薄い皮のようなものです。
薄いけれども、この皮一枚が重要です。

すなわちこの薄い膜をがんが突き破るというのは、
がんが胃の壁を突き破るということです。
すなわち、がんが胃の壁の外にこぼれ落ちてしまうこと。

こぼれ落ちるとお腹の中、一杯にがんが散らばります。
それまでは塊だったのが、チリチリバラバラに拡がる。
まるで野原に植物の種を播いたような状態になります。

その胃がんの人生を考えると、それは大きな転機です。
集落を作ってその中だけで暮らしていたのが、
広々とした新天地に種がばら撒かれ、新たな集落を作られる。

新天地は広大で、伸び伸びと仲間をさらに増やせます。
このような状態を腹膜播種といいます。
小腸や大腸の壁の外の漿膜面にも小さな塊を作ります。

お腹を開いて肉眼的に見ると、米粒のような外観です。
最初は米粒ですが、がんですから、みるみる成長して
結構な塊になり、隣の腸の漿膜にもがんが足を伸ばします。

がんが腸と腸の漿膜に二股をかけた状態は、
大腸や小腸にとって、かなり困った状況です。
なぜなら腸と腸が癒着して自由に動けなくなるからです。

胃や腸管の外壁は、ドジョウのようにヌルヌルしています。
ヌルヌルしているからこそドジョウは自由に動き回れます。
腸管もそれと同じで、ヌルヌル動けるので蠕動できます。

がんが胃の壁を突き破ると、このような癒着ができて
腸が自由に動き回れなくなるので困るのです。
なお癒着は、がん以外でもお腹の手術の後に起こり得ます。

胃がんの細胞は、横に拡がろうという性質と
縦に潜ろうという2つの性質がありますが、
深く潜ろうという性質はタチが悪いと言います。

タチのことを医学の世界では、悪性度といいます。
 タチがいい=悪性度が高い
 タチが悪い=悪性度が低い
と言います。

 タチがいい=横に横に拡がろうとする、
 タチが悪い=小さくても縦に縦に潜ろうとする、
という言い方もできます。

いずれにせよ、早期の胃がんとは、縦方向の進展だけで
定義されます。縦方向にもぐってさえいなければ、
横へどれだけ拡がっていても早期ということになります。

タチの悪さは、早期かどうかに関係ありません。
タチが悪くても粘膜層に留まっていれば早期がん。
タチとは関係無く、縦への進展だけが大切なのです。

以前、直径が10センチにも及ぶ胃がんを見つけました。
胃の粘膜の表層だけに留まっているので早期なのです。
横方向だけなのでその時点ではタチがいいがんなのです。

その方は、病院で内視鏡で粘膜を削り取る処置が検討されました。
しかしがんの範囲が不明な点があったので、手術になりました。
切除標本の観察ではがんの長径は12センチにも及んでいました。

それまで自分が診た中で、一番大きい早期の胃がんでした。
早期胃がんのことを書いているうちに、いろんな患者さんを
思い出したので、しばらく胃がんについて書いて行きます。