《1373》  早期胃がんを放置したひとたち [未分類]

内視鏡医をやっていると、偶然、早期胃がんが見つかります。
ほとんどの人は、内視鏡手術ないし外科手術を受けられます。
しかし“逃げて”しまい、放置した人が何人かおられました。

1人は2年後くらいに胃が痛くなり、私の前に再び現れました。
さすがにバツが悪そうな顔をされていましたが、よほど痛いのか。
再び内視鏡で診るとがんは大きくなり進行がんに育っていました。

その段階で、再度、病院の外科に紹介状を書いた記憶があります。
手術を受けられましたが、その後、どうなったのか分かりません。
医療とは御縁ですから、あまりしつく追いかけることはしません。

もう一人は、80歳代と高齢の男性でした。
この方は、本人の強い希望で、病院に行かれませんでした。
2年ほどして、再び内視鏡で見たら、かなり大きくなっていました。

全身衰弱して半年間くらい在宅医療で診た末に看取りとなりました。
がんで亡くなったのですが、老衰の要素もかなりあり、死亡診断書
を書くときに、どちらで書くべきか迷ったことを記憶しています。

この方をお看取りさせて頂いた時に、思ったことは「そうか、
早期胃がんを放置していたらやっぱり死ぬんだ」ということです。
せっかく見つかった早期胃がんを放置することは現実には稀です。

あと放置と聞いて頭に浮かぶのは、現在進行形の人達です。
高齢ゆえに手術を望まず、自然経過に任せている人達です。
もちろん本人や家族と何度も話合いをした結果のことです。

定期的に受診されますが、受診のたびに、葛藤が見られます。
「今からでも手術しようかな」という本人の葛藤、揺れです。
がんを治療しないという選択にも常に不安がつきまといます。

「そんなに不安なら、今から手術すればいいじゃないか」と
言いますが、再度の内視鏡検査さえも拒否されています。
がんの手術も怖いが、手術しないのももっと怖いようです。

早期胃がんを放置しても、すぐには死にません。
しかし進行がんに成長していく症例を見ました。
そしてその延長線上で亡くなった方も見ました。

実は、これは早期胃がんに限りません。
食道がんでも大腸がんでも膵臓がんでも同じことです。
早期がんを治療しないで様子を見ていると進行がんになります。

ただ、臓器によって進行がんになるまでの速度が異なります。
食道がんや膵臓がんは早く、大腸がんはゆっくりです。
胃がんは中間というか、標準的かと思い、ここに書いています。

医者の側から放置を勧めることは、普通、あり得ません。
あとで裁判になれば、100%負けて医者ができなくなる。
過去の多くの医療裁判の判例を詳しく見れば明らかです。

早期がんであることを、何らかの事情で本人に伝えることが
できず、症状が出た時には手遅れになっていたという例です。
そのような裁判では医者に億単位の賠償を命じられています。

しかし患者さん側の何らかの都合で、期せずして早期胃がんの
自然経過を見ることになることは、ごく稀にあるのです。
そうした症例から、我々は多くのことを学びます。

私1人が見た早期胃がんの自然経過症例なんてたかが知れている。
しかし、がんセンターレベルになると、結構な数になるようです。
明日は、そうした医学論文を御紹介します。

(続く)