《1374》 早期胃がんを放置したら(その1) [未分類]

早期胃がんを放置したら、どうなるのか?
とても素朴ですが、興味深い疑問でしょう。

Gutという権威ある専門誌に載った2000年の論文を紹介します。
原文を読みたいと言う方は、こちらから直接お読みください。
(Gut 2000;47:609 doi:10.1136/gut.47.5.609)

私なりに、解説してみます。
この論文は大阪の病院からのもので、
早期胃がんを放っておいたらどうなるか
についての報告です。

1988以前に早期胃がんと診断されたものの
高齢や虚弱やまたは拒否等の理由で
すぐには手術されなかった71例の患者さんの
長期的な経過について述べられています。

36例の早期胃がんは、5年後に51%が進行がんになりました。
不完全なフォローアップのために数例を除外した後の検討では、
5年間に進行がんになる確率は63%であると推定されています。

裏を返せば、5年の時点では37%が早期がんであったということ。
早期がんを放置すれば5年後に3分の2が進行がんになりますが、
3分の1は、早期がんに留まっていたという話です。

71人の患者さんのうち38人は最終的に手術を受けませんでした。
そのうち、23人(61%)は胃がんで死亡しました。

経過がよく分からない患者さんの割り当て方にもよりますが、
このグループの5年生存率は、63-68%であると推測されました。
このように早期胃がんの自然経過を追跡した報告は貴重です。

現在、内視鏡的粘膜切除術(EMR)の発達に伴い外科手術は減少中。
いっぽう高齢者や虚弱患者のでも内視鏡での治療が可能になりました。
時代と共に早期胃がんの治療方針は大きく変わっているからです。

従って今後、同じような観察を繰り返すことは
困難になるでしょうから、これは
極めて貴重な報告であると考えられます。

早期胃がんは放置すると癌は進行し、最終的に死へ至る
避けられないひとつの段階であると、著者は結論づけています。
つまり早期がんという概念はある、ということになります。

しかしながら、このデータだけではこのような結論が
100%保障されないとするのが科学的な考え方です。
臨床的な研究には、必ずどこか弱点も存在するのです。

(続く)