《1387》 私がノロウイルス診断キットを使わない理由 [未分類]

「吐き下し」をするウイルス性の胃腸炎が流行しています。
インフルエンザと同じくらい患者さんが多い。
おそらく多くはノロウイルス感染であると思われます。

ノロウイルスは、1972年に電子顕微鏡で発見されました。
最初はノーウオークという名前でしたが、2002年の第12回
国際ウイルス学会で、現在のノロウイルスと改名されました。

ノロウイルスは、たった10~100個のウイルスで
感染が成立するほど感染力が強く増殖も速い。
低温や高温にも強く大変しぶといウイルスです。

下痢便や吐物のなかに大量にいるウイルスが手に付着して
口から入って人から人への感染が成立します。
潜伏期間は1~2日で、軽度の発熱を伴うことが多いです。

冬に嘔吐、下痢、腹痛を訴えて受診される方は
たいていノロウイルス感染。しかし、現場では
感染性胃腸炎ないし急性腸炎として扱われます。

ノロウイルスによる感染性胃腸炎には、
特効薬もワクチンも無く、吐き気止めや
消化剤や漢方薬などの対症療法のみです。

ウイルスなので抗生物質も意味がありません。
また下痢だからといっても、強い下痢止めはお勧めしません。
ウイルスを体外に排出するのを止めれば治癒が遅れるからです。

私はよく「2食抜いて、スポーツドリンクだけチビチビ飲んでね」と
指示しますが、たいてい2~3日で自然に治ります。
ただ、脱水に陥り易い小児や高齢者は注意が必要です。

よく老人施設での集団感染が報道されるのは、胃ろうをしている高齢者が
嘔吐しそれを誤嚥して窒息したり誤嚥性肺炎を起こした場合のようです。
普段元気な人なら、そんなに心配することはありません。

しかし感染力がとても強いので、職場や家庭や学校
などでの集団感染があり得るので、その予防が重要です。
治療より予防だと思います。

一方、ノロウイルスが身体に入ってきても症状が出ない人もいます。
こうした不顕性感染が3~6割あると言われています。
また感染者は症状が治まっても2~4週間、ウイルスが排出されています。

よく「治癒証明書を書いて」という方がいますが、
完全治癒までは、相当な時間がかかるので書きにくい。
「そんな証明書より下痢が止まれば出社していいですよ」
と説明します。 

インフルエンザの診断と同様に、便を「迅速検査キット」で
ノロウイルスがいるかどうか調べてくれという人もおられます。
しかし私は特別な理由がなければやりません。

これは、便中の「ノロウイルス抗原検査」を検出する検査キット。
3歳未満、65歳以上、抗がん剤治療中など人には
健康保険が適用さますが、それ以外は自費となる。

またノロウイルスに感染していても陽性とならない場合もあります。
なぜならノロウイルスと判明しても特効薬が無いので、
わざわざ検査をする意義を、私は感じないからです。

インフルエンザですと抗ウイルス薬を使ったり、
学校を休む根拠になるので
迅速診断キットは意味があります。

しかしノロウイルスの場合は、偽陰性のこともあるし、
余分な費用もかかるし、あまり必要性を感じません。

ただ食品関係に従事している方でどうしてもという人だけ
調べることはあります。ウイルス性腸炎には、
ノロウイルス以外にもロタウイルスなどもあります。
また、ウイルス性腸炎以外には細菌性腸炎もあります。

私はノロウイルス対策で大切なことは、集団感染の予防だと思います。
どうか手洗いやうがいを励行してください。
トイレに行った後や調理や食事の前のこまめが手洗いが大切です。

《PS》
経腸栄養の講演のために石垣島に来ています。
昨夜は、熱い島人たちと朝まで語りあいました。
生きるとは食べることであることを確認しあいました。