《1391》 1週間倒れたままでも生きていた! [未分類]

ある独居老人の在宅医療を担当しています。
2週間ごとに夜に訪問診療を行うのですが、
その日は呼び鈴を押しても、出て来ません。

寝ているのかな?
お風呂に入っているのかな?
耳が遠いので聞こえないのかな?

この程度のことは、時々あります。
しかし、何度も何度も呼び鈴と電話を鳴らしました。
しかし、うんともスンとも言いません。

近くに住む家族の電話も鳴らしましたが出ません。
家族旅行で有馬温泉にでも行っているのかな?
レストランで外食に連れ出しているのかな?

気になって翌日、もう一度寄ってみましたが
昨夜と同じで、中からの反応がありません。
これは、もしかしたら・・・・

でも複数の家族とも、まだ連絡が取れません。
夜遅くになって、やっと連絡がつきました。
しかし、一戸建ての門に鍵がかかっています。

家の持ち主さんを呼び出して、門の鍵を開けました。
しかし、その中にさらにチェーンがかかっていました。
大家さんが、チェーンソーでそれを切って中に入りました。

すると案の定、その方は玄関でうつ伏せで倒れていました。
声を出したので、生きています。
もちろんオシッコまみれですが。

事情を聞くと1週間、倒れたままだったそうです。
膝が痛くて転倒して、そのまま動けなくなったと。
その間、一切何も飲まず食わずです。

暖房も無い場所で寒さと脱水で体は震えていました。
しかし、会話は可能。
水をもっていくと、寝たままゴクゴク、飲みました。

しかし、自力で体を動かせるのは、
腕だけで寝返りさえも打てません。
膝は、1週間の間に固まっていました。

普段は、室内だけは自力で移動できる方です。
しかし、全く見違える姿になっていました。
とりあず、水を飲む様子を観察していました。

おいしい、と。
そりゃそうでしょう、1週間ぶりの水分なので。
とりあえず、生命には直ちに影響は無いようです。

会話をしながら全身を診察しました。
脳卒中の所見はないか?
骨折の所見はないか?

脈は微弱ですが、規則正しく打っています。
舌を診ると、実にカラカラです。
高度な脱水がメインだと思われました。

救急搬送するにしてもどこに搬送するのか。
内科? 脳外科? 整形外科? 救急救命?
どこかな? と思いながら1時間、過ごしました。

入院したことがある病院と連絡を取りました。
当院に実習に来たことがある研修医が
当直だったので、話はスムーズに運びました。

しかし、肝心の本人は「入院はイヤ」と言われました。
 「絶対に入院はイヤ!」と。
家族ともども、しばし困り果てました。

仕方がないので脱水の補正のためのスポーツドリンクを
家族と一緒に買い出しに行こうか、と提案もしました。
しかし、明日になってもおそらく歩けないでしょう。

急がば回れ、と本人を説得しました。
家族たちも仕事があり、明日から急な介護はできません。
本人は、渋々、入院を承諾してくれました。

その夜は、今年一番の冷え込みでした。
もし私が行かなかったら、翌朝には死んでいたかも。
人の命を助けました。

こんなことをして帰宅したら日付けが変わっています。
世間から見たら、とんでもない夫でしょう。
しかし、ちゃんと人の命を救いました。

(続く)

《PS》
ソチ五輪、そして週末の都知事選挙を控えて
世の中は、忙しくなります。
そんな中、ひっそりと「おひとりさま」を書いてみます。