《1393》 検死の依頼が来る季節 [未分類]

2月の朝一番に見知らぬ番号から電話が鳴るとゾッとする。
「これは、長尾さんの携帯ですか?」
これだけで、誰からの電話か、何の要件か分かってしまう。

「こちらは、○○署ですが、○○さんを御存知?」

もちろん知っています。
外来患者さんであったり、在宅患者さんであったりします。
ああ、やっぱり、という感じでしょうか。

朝一番にヘルパーさんが入ったら冷たくなっていた。
あるいは、知人や身内が訪ねたら、死んでいた、と。
おひとりさまのピンピンコロリを受けての、連絡です。

亡くなっている場所は、たいていトイレか浴室です。
布団の中で寝たまま亡くなっていたこともあります。
文字どおり、眠るように死ぬ、というパターンです。

トイレの場合、便座に座ったまま壁にもたれている。
浴室の場合、浴槽の中に浮いています。
時間が経っていると、土左衛門状態です。

気温の急激な変化は、血圧の急激な変化をおこします。
すると致死性の不整脈が起きると、ほぼ即死します。
トイレと浴室が、そうした変化が起こり易い場所。

トイレはそれに加えて、排尿や排便にともなう
自律神経の変化が起こり、失神しやすいのです。
元気で若い人でも、排尿失神は起こります。

おひとりさま、には普段から、言っています。
「トイレと浴室が貴方の死に場所になるかも。
 だからそこに入る時は覚悟して入ってね!」と。

みんな笑って本気にしません。
でも本当にそうなっていたら、あーあーという感じ。
みんな家で突然死するなんて考えてもいないのです。

警察は事件性があるか無いかを見ます。
プロですからすぐに分かります。
事件性が無いと判断したら、かかりつけ医を呼びます。

訪問診療記録にある携帯番号や、領収証や診察券から
クリニックに電話がかかって来ることもあります。
1年前にかかった切り、という人もいます。

降圧剤を飲んでいなかったのでそうなったのでしょう。
もうあとの祭りですが、もったいないな、と思います。
高血圧の治療はやはり大切です。

直腸温を測り、それから死亡時刻を推定します。
1年間来院していなくても警察が事件性無し、
と判断したら、死体検案書を書いてくれと頼まれます。

警察医はボランティアだし、数が少なくて忙しい。
異常死体の検案だけでも大変なようです。
おひとりさまの自然死なら、近所の町医者で充分です。

とにかくこの季節の朝の電話にはドキッとします。

(続く)