《1405》 おひとりさまでなかったおひとりさま [未分類]

病院嫌いだという80歳代の女性の在宅医療を
あるケアマネさんの知人から依頼されました。
天涯孤独のおひとりさまとの情報でした。

初回訪問すると、玄関で声を上げてしまいました。
じゅうたんが、びしょびしょで靴下が濡れました。
飼いネコの尿と本人の尿が混じっているようでした。

乾いている部分を選んで歩き、その方に近寄りました。
かなり衰弱している以外の情報は得られませんでした。
おそらく認知症の終末期と思われる方でした。

途方に暮れていると案内してくれた女性が
これまでのいきさつを説明してくれました。
1カ月前からだんだん弱ってきたとのこと。

ほんの少量しかご飯がたべられません。
老衰なのか何か病気があるのか分かりませんでした。
おひとりさまでもあるので、入院加療を強く勧めました。

しかし、本人は絶対イヤだと言われました。
看護師さんに連日の点滴を指示しました。
私は2~3日おきに様子を見に行きました。

少しは元気になってくれるかな?と期待しました。
しかし、完全寝たきりに近い状態になりました。
もはや自力では動けない状態に陥りました。

いつもそこにいる女性に本人との関係を聞きました。
すると近所の知り合いで、ボランティアで毎日訪問して、
身の周りの世話をしているとのことでした。

状態が悪くなったら泊まります、とも言ってくれました。
世の中には親切な人もいるんだなあと感心していました。
患者さん本人もその隣人をとても頼っているようでした。

2週間後、ついに危篤状態に陥りました。
本人に「ご家族はいませんか?」と念を押しましたが、
「いません!」の一点張りでした。

ボランティアで付き添っている近所のおばちゃんにも
家族はいないか聞いてみましたが、いないとのことでした。
結局、危篤の説明はおばちゃん以外にする人がいなかった。

本人の意思と近所の親切なおばちゃんの協力(?)で
在宅で穏やかな最期を迎えられました。
死亡診断書には「老衰」と書きました。

ところがです。
その翌日、長男と名乗る人から電話がかかってきました。
「母親の経過について説明して欲しい」とのことでした。

あれ? おひとりさまじゃなかったの??
キツネにつままれた思いで訪問しました。
まだ、ご遺体はそこにありました。

驚いたことに、長男、長女、次女もそこにいました。
さらに何人かもお孫さんもいました。
おひとりさまじゃ無かったんだ!・・・

しかもみなさん、その家のすぐ近くに住んでおられました。
なのに本人も近所のおばちゃんも私に身寄りなしと言った。
騙された!と思い、近所のおばちゃんの顔を見ました。

彼女は、黙ってうつむいていました。
長男は、2週間の病状経過について説明を求めてきました。
私は汗を拭き拭き必死で、一連の経過をご説明しました。

長男は、「納得できないな」と呟きました。
すぐ近くに住んでいながら親の死に目に
会えなかったことを、私に恨んでいるようでした。

家族関係がどうであったのか、またおばちゃんとどんな
関係であったのかが気になりましたが聞くのが怖かった。
何か事件になったり、訴えられるのかな?と思いました。

しかしその後、家族からは何も言ってきませんでした。
そのうちに私の記憶の片隅に追いやられていきました。
しかしこうしておひとりさまについて書くうちに思い出した。

自称おひとりさまを、信じてはいけないことを学びました。
近所のおばちゃんも簡単に信じてはいけないことも学んだ。
あれ以来、おひとりさまかどうかをちゃんと調べています。

といっても私たちは役所じゃありません。
個人情報保護法の壁もあります。
しかし、本人の言うことを鵜呑みにしてはいけないと学んだ。

本当のところ、何があったのか今でも分かりません。
しかし、とっても大きな教訓になりました。
おひとりさまがおひとりさまで無い場合もあるのです。