《1407》 兄弟も拒んだままだったおひとりさま [未分類]

乳がんが全身に転移したおひとりさまの
女性を紹介されました。股関節の骨にも、
がんが転移して歩けず寝たきり状態でした。
全身の皮膚にも、がん転移してあちこちから出血していました。

しかし、この方は筋金入りの病院嫌い。
訪問看護師とヘルパーさんが毎日のように入って
皮膚の処置や痛みの緩和を行いました。

1年以上、完全な寝たきり状態が続きました。
両親は亡くなり、遠くに兄弟がおられました。
私もクリニックでお会いしたことがありました。

しかし本人は、ご兄弟と会うことを嫌がりました。
時々、短時間だけ会われてはいるようでした。
兄弟の間に何があったのかは知りません。

私は合い鍵をもらっていたので、週に1回入りました。
部屋を暗くしてテレビをつけたまま寝ているので
毎回、起こしてからいろんなお話をしました。

1年以上かけて、ゆっくりゆっくり悪くなりました。
食事量が、ゆっくりゆっくり減っていきました。
それでもホルモン治療は続けました。

もういい、と言われながらもホルモン剤は希望された。
わずかな生きる希望だったのかもしれません。
平行して痛みの治療も徐々に強化していきました。

外出は何度も勧めましたが、嫌がりました。
その家は持ち家で、家がいい、と言われました。
キャリアウーマンだった唯一の財産であるとも。

ついに命に危険がある状態に陥りました。
おひとりさまなので入院かホスピスを強く勧めました。
しかし終始一貫、拒否されました。

仕方がないので本人に「ここで死ぬかも」と言ってみました。
すると本人は、「それでいいです」と言うのみでした。
元気はありませんが、意思表示はしっかりっできました。

毎日、訪問看護師やヘルパーさんが毎日入っていますが、
イザその時の対応についての会議を2回ほど開きました。
さすがに本人の前では、そんなことは話しませんでした。

そして数カ月後、朝9時にヘルパーさんが入った時に
呼吸が停止している、との連絡を頂きました。
予めシミレーションした通りになってしまいました。

結局、おひとりさまの在宅療養は2年近く続きました。
文字どおり、病気の割にはとても穏やかな最期でした。
あれで本当に満足だったのかな?という気はしました。