《1426》 トイレで絶命したおひとりさま [未分類]

先日、80代後半のおひとりさま在宅患者がトイレの中で
息絶えているのを、朝一番のヘルパーさんが発見しました。
要介護2で、週3回ヘルパーさんが入っていました。

そのヘルパーさんは、私の講演を聞いたことがあるらしく、
連絡ノートを見て、最初に私の携帯電話を鳴らしました。
多くのヘルパーさんはまず救急隊に電話されるのですが。

触ると手がもう冷たくなっていたそうです。
うわずった声で私に電話をかけてきました。
午前9時、ちょうどでした。

その時私は、少し遠くにいました。
患者さんの家に行くのに4時間もかかりました。
家に着くと、娘さんが来られて泣いていました。

娘さんの話では、昨夜電話した時は、普段と変わらなかったと。
とすると明け方にトイレに行った時に、絶命されたのでしょう。
排尿後にそのまま失神したり絶命する人が、時々おられます。

排尿失神と言います。
排便失神もあります。
自律神経のスイッチが入れ替わる時に失神するのです。

私は、まず患者さんの状態を観察しました。
壁にもたれたまま亡くなっていました。
ご家族にも確認してもらいました。

事故や事件では無く、自然死であると判断しました。
警察を呼ぶ必要はないと思うが、呼んで欲しいか聞きました。
すると家族は、その必要は無いと言われました。

もし家族が希望したら警察を呼んだかもしれません。
しかし所詮無駄な作業だとは思っていました。
どうせ主治医の私が死亡診断書を書くことになるからです。

実は、同様な経験を何度かしてきました。
警察は事件性が無いと判断すれば、早々に引き揚げて
診断書を書いてくれと頼まれることがありました。

その患者さんは高血圧、心不全で老衰の前段階でした。
週に1回、1時間かけて娘さんが見守りに来ていました。
私が到着した時、泣いていましたが納得されていました。

実は、独居なので、その半年前にこのような事態を想定した
ケア会議を一度、開いていました。
もし朝一番にこうなっていたら、とシミュレーションをした。

もちろん本人の前ではできません。
当院の会議室で本人抜きで行いました。
警察ではなく、まず私の携帯を鳴らして欲しいと説明しました。

ヘルパーさんは、そのことを覚えてくれていたのです。
トイレで亡くなることがあり得ることを知っていました。
死亡診断書の死亡時刻は、「午前9時」で書きました。

しかし死因の欄でちょっと迷いました。
老衰と書くには、前日までそこそこ元気でしたから。
結局、「急性心不全」と書きました。

実は、医師法20条では、主治医が後でもいいから、
診れば死亡診断書を書いていい、となっています。
私は自分の目で亡くなっている様子を診たので書きました。

私が家に到着したのは午後1時で、4時間後でした。
しかし死亡時刻は私の到着と関係ありません。
事実に一番近いと思われる時間で書くことしかできません。

(続く)