事故や戦争で片腕や片足を失ったのに、その腕や足が
「痛い、痛い」と訴えるケースに時に遭遇します。
腕や足が無いのに「腕や足が痛い」と言われるのです。
これは「幻肢痛」と呼ばれます。
脳が痛みを感じるのです。
その腕や足を支配している脳が痛みの大元なのです。
さらに興味深いのは、生まれつき、腕や足が無いのに
同じことを訴える人がおられることです。
先天性の障害においても脳が感じることがあるのです。
つまり、予め脳がその部位の感じるように
遺伝的にプログラムされているのでしょうか。
たとえ、その部位が生まれつき欠損してたとしてもです。
幻視痛は一般に、痛み止めが効きにくく難治性です。
脳が痛みを感じにくくするようにする目的で、
抗うつ剤を投与する場合が多いですが
劇的に効くわけではありません。
全身のいたるところが痛い痛い、と訴える病気があります。
「線維筋痛症」という病気です。
ちょと触っただけで、飛び上がられます。
重症な人は、触らなくて手の平を皮膚表面から5センチほどに
近づけただけでも「痛い!」と飛び上がる場合があります。
まさに「手かざし」だけで、激痛が走るのです。
この場合、脳のいたるところが痛みにとても
敏感になっていると考えられています。
この状態を、「疼痛閾値(とうつういきち)が下がる」と表現します。
閾値とは、痛みを感じるスイッチの敷居の高さのことです。
閾値が高い=痛みを感じにくい、鈍感
閾値が低い=痛みを感じやすい、敏感、です。
痛みの閾値は、人によってさまざまだと医者をやっていると思う。
わずかの痛みでも、その人には死ぬほど痛がる人がおられます。
俗にいう、「痛がり屋さん」です。
「大腸内視鏡検査って痛いですか?」とよく聞かれます。
麻酔をしなくても検査中寝ているひともおられます。
一方、肛門にゼリーを塗っただけでも痛みで気絶するひとも。
痛みの感受性は実に人によって様々なので、
痛み止めの量や効果も実に個人差が激しいのです。
私は、千倍~1万倍位の個人差があるように感じます。
また、その人のその日の体調によって、閾値は変わってきます。
関節リウマチの人は、天気が悪くなる(気圧が下がる=酸素濃度が
わずかに少なくなる)だけで、痛みが強くなるのは有名な話。
食事内容によっても疼痛閾値はかなり違ってきます。
甘いものばかり食べていると疼痛閾値が下がってきます。
甘いものを止めるだけで、痛がりが治る人もおられます。
よく、「痛みは何科に行けばいいの?」と聞かれます。
ペインクリニック(科)を紹介しますが、本当は
脳内科ではないかと思っています。
脳内科?
手術をしない脳のお医者さんのことを勝手にそう呼んでいます。
まあ、神経内科のことでしょうか?あるいは精神科かな?
そう思いながら、ペインクリニックを紹介するのは、そこでは
痛みの上流(=脳)のみならず、中流(=脊髄)や下流(=末梢)の
いろんなレベルからのアプローチが可能だからです。
もちろん痛みの原因を調べるのは内科医の仕事です。
胃腸を調べたり、心臓や肺を調べるのは当然です。
しかし、それでは説明がつかない痛みも沢山あります。
がんの痛みなら、緩和ケア外来となるのでしょうか。
患者さんの望むところに、紹介状を書かせていただきます。
「痛み」とひとくちに言いますが、いろんなことを考えます。