《1438》 麻薬の思い出、そして使える安心感 [未分類]

昔話をして笑われる歳になったのかもしれません。
私が医者になった当時は、現在のような
麻薬製剤は当然、ありませんでした。

当時は「ブロンプトンカクテル」という処方が流行りました。
モルヒネとシロップとアルコール(赤ワイン)を混ぜた液体。
ややこしい処方箋を書いて薬局で調合してもらっていました。

お酒が入っているというのが印象的でした。
末期がんとお酒の組み合わせが、妙に新鮮でした。
当然アルコールが合わない、と訴える方もおられました。

1950年代に英国のブロンプトン病院で開発されました。
日本には1978年に導入され、当時はよく使われました。
先輩医師から私がこの処方を教わったのは1984年です。

あれから30年。
1989年にモルヒネ徐放剤が発売されてから廃れました。
現在は、オプソやオキノームという頓服の麻薬も使えます。

ブロンプトンカクテルとオプソの共通点といえば、
液体であることです。
ほとんど食べられない脱水の口から、沁み入るように入る。

大きな病院の外来抗がん剤治療室の看護師長さんが自分が
大腸がんの末期状態になり在宅療養を余儀なくされました。
彼女が一番驚いたのはそのオプソという頓服の麻薬でした。

液体2mlを飲むと、20分も経たないうちに痛みが軽減。
そのオプソとは液体の即効性のモルヒネですが、
医療機関では、どこでも、とても厳しく管理されています。

特に病院では、患者さんが看護師さんに要求して
初めてベッドサイドに持って来てくれるそうです。
しかし在宅では、常にベッドの横に何本も置いてあります。

それが一番驚いたそうです。
夜中も自由に麻薬を使えるので、とても安心できるとのこと。
我々には当たり前のことに、驚き、感動されていました。

思い起こせば、30年前のブロンプトンカクテルも
患者さんによっては、自己管理されていました。
入院していても夜中に自分の判断で飲んでいた人がいました。

自分の痛みは自分にしか分かりません。
いつでも痛み止めの頓服が使える安心感が、
在宅医療の醍醐味であると、彼女は教えてくれました。

痛みは、1日の中で一定ではなく、常に変動します。
痛み止めは土台薬と頓服薬で構成されますが、人によっては
頓服薬から開始することがあってもいい、と思っています。