《1448》 レスキューは土台の6分の1のはずが…… [未分類]

痛みは一定ではありません。
日により時間により変動します。
一定の痛みの上に、突出した痛みが加わります。

そうした変動する痛みに対応するためには
麻薬などの痛み止めは、二段構えにする必要がある。
つまり土台となる痛みと突出痛の対応を分けるのです。

土台を作っておいて突出痛にはレスキューで対応する。
これが、鎮痛薬を使用する時の基本的な考え方です。
では土台とレスキュー薬の量の関係について考えます。

一般に土台の6分の1がレスキュー薬とされています。
たとえば1日に塩酸モルヒネ60mgを飲んでいる人なら、
1回のレスキュー量はその6分の1の10mgとなります。

なぜ6分の1になったのかは、詳しく知りませんが、
おそらく安全性を優先しているのだと思います。
6分の1という数字は、大変合理的だとも思います。

ある大学病院から在宅医療に紹介されてきた患者さんの
モルヒネの量を見て、皆で首をかしげたことがあります。
塩酸モルヒネ300mgの土台に対してレスキュー5mg。

本来は300mgの6分の1である50mgをレスキュー量
として設定すべきですが、なぜかその10分の1の5mg。
患者さんが「頓服を飲んでも効かない」というのは当たり前。

1回のレスキュー量があまりにも少ないために効かないのです。
やはり「分相応」の頓服薬の量にしないと効きません。
「分相応」とは土台の6分の1のことです。

喩えが悪いですが借金が300万円ある人に追加融資を
5万円しても、あまり意味が無いのと同じようなもの。
もし追加融資をやるなら50万円であるべきでしょう。

この患者さんの場合まずレスキュー量を増やして行きました。
1回5を10に、そして10を20にそして30にしました。
このあたりで頓服が少し効き始めました。

そして40mgにした時にやっと「頓服が効く」と言われた。
1日に1~2回、1回40mgの頓服薬を飲まれていました。
それで、だいたい突出通を抑えることができるようになった。

その患者さんは大学病院志向が強くて、増量に苦労しました。
なにかというと「大学病院の先生の指示だから」と言われた。
町医者のいうことより大学病院の若い医師の信用は遥かに大。

なぜ大学病院の主治医がそんな少ないレスキューで帰したのか。

 1) がんの治療に熱心で、緩和ケアを忘れていた
 2) がんの治療には興味があるが、緩和ケアには興味がない
 3) そもそも緩和ケアの知識が少ない

おそらく全部だと思います。
なぜかというと、同じような患者さんが何人かおられたから。
私たちも不思議で不思議でしょうがなかった。

さて、1日に頓服を3回以上使う場合は土台そのものの量を
身直す必要があります。
そのような場合、通常、土台の麻薬を1.5倍に増やします。

1日300mgを飲んでいた人なら450mgに増やすのです。
当然、1回の頓服薬もその6分の1の約70mgに増えます。
土台に連動して、頓服薬も増えるのです。

こうした作業を繰り返しながら、その患者さんの痛みを抑える
麻薬の土台となる量を探り当てていくのです。
その作業のことを“タイトレーション”と呼びます。

緩和ケア病棟では、1日のうちにタイトレーションをします。
しかし在宅ホスピスでは、増量は1日単位でしかできません。
ゆっくりタイトレーションをいくのが、在宅現場です。

今日は、6分の1という決まりごとについて書きました。
もちろん例外もあります。
たまに、3分の1でないと効かないという人がいます。

1日か2日に1回、激痛発作が起きて、3分の1で効くが、
6分の1では効かない、という人です。
普段はなんともないのに……なんて人が時におられます。


PS)

今日は、午前中、NHK文化教室で講演。
午後は、作家の五木寛之さんと同じ壇上に立ちます。

その間に企画されていた、恒例の在宅患者さんとの
お花見大会は、天候不順のため中止になり泣いています。