認知症での在宅医療を依頼された80歳代の男性。
初めて訪問すると、過食、徘徊、昼夜逆転でした。
さまざまな認知症ケアを実践して、改善しました。
ある時からは過食も収まり、逆に食欲は徐々に低下。
白眼をよく見ると、少し黄色くなっていました。
黄疸です。
エコー検査などで胆管がんであると判明。
認知症とがんの合併です。
超高齢社会では、決して珍しくはありません。
入院するか、手術をするか、抗がん剤をするかなど、
ご家族さんと3回ほど話し合いました。
家族はすべて拒否し、自然に任すことにしました。
そうこうしているうちに、黄疸が強くなりました。
一見して、顔も体も真黄色になってしまいました。
ここでまた選択を迫られました。
内視鏡で「胆管ステント」を入れるのか入れないか。
「ステント」とは、ドカンにような管を入れること。
がんはいじらず、胆汁の流れ道を造り、黄疸を軽減する。
胆管ステント挿入には、入院が必要です。
家族の付き添い、泊まり込みが必要です。
また2回ほど、家族と話し合いをしました。
その結果、入れることを選択されました。
結局、入院は3週間にもおよびました。
しかし退院時は、黄色が全く消えていました。
退院後、食欲が劇的にアップしました。
体重も少し増えて、見違えるほど元気になりました。
家族も胆管ステントを選択したことを喜ばれました。
しかし徐々に食欲が低下し、3カ月後に自宅で旅立たれました。
痛みは全く無く黄疸も軽度で、実に穏やかな最期でした。
結局、胆管ステントで寿命が2~3カ月延びたのです。
このように「ステント」を入れることで、
黄疸によるかゆみ、食欲低下を明らかに緩和しました。
さらに、寿命を、少しですが延ばしました。
麻薬を使うことだけが緩和医療ではありません。
このようにステントを入れることも、緩和医療のひとつ。
ご家族も私たちも「やってよかった」と思った緩和医療です。