末期がんで在宅医療を行っている患者さんの中に
行くたびに「死にたい、死にたい」と言われる方が1人。
まだまだ死にそうにはないのですが毎回「死にたい」と。
遺書を書いて包丁を胸に当てたと言って胸を見せます。
「ためらい傷があるから」というが、傷など見えません。
奥さんは「昔からのクセです」と言って呆れています。
なぜ死にたいのか聞いてみました。
すると「何の楽しみもないから」とのこと。
長年の闘病生活自体が相当なストレスになっているのか。
私は「大丈夫、もうすぐ死にますから」と言います。
患者さんは「ええ?」と驚かれます。
「あと少ししたら、100%死にますから大丈夫」と私。
外来診療でも同じような患者さんはおられます。
言いながら笑っています。
その在宅患者さんも微笑みながらそう言います。
「うつ状態」なのです。
あるいは「スピリチュアルペイン」なのです。
「こころが痛い」のです。
それは分かるのですが、緩和するのは簡単ではありません。
まずどれくらいの痛み・苦しみなのか理解することから開始。
傾聴やタッチケアやアロマテラピーなどをお願いします。
安定剤程度のお薬は使います。
精神科専門医は通常、自宅に往診はしてくれません。
私たちでできることを、すべてやります。
程度の差はあれ、「死にたい病」は、人生の終末期が近づくと
多くの方に見られる現象です。
「楽しい! 生きててよかった!」と思える何かを探します。
医者は薬を使えない緩和ケアは苦手かもしれません。
そこは訪問看護師さんの出番です。
そして毎回訪問するたび、患者さんの顔が明るくなっていきます。