《1462》 「待つ」ことが一番難しい [未分類]

待ったほうが得であることを、たとえ知っていても
いざ臨床現場で本当に「待つ」ことは極めて困難です。
大量の腹水を前にするとそれを抜いた方が気が楽です。

「なぜ水を抜かないのか?」
「抜けば患者さんは楽になるんじゃないか?」
といった疑問や批判の声から身をかわすことができます。

人生の終末期に脱水になっている人をいざ前にして、
点滴をしないことは、かなり勇気がいることかも。
私自身には日常でも、多くの医師には非日常でしょう。

「脱水なのに、なぜ点滴しないのだ?」
「点滴くらいしてあげてもいいじゃないか?」
といった疑問や批判の声から身をかわすことができます。

医療者は、何もしないで待つことより、何かを
しているほうが圧倒的に気が楽です。
腹水を抜いては脱水だと言っては点滴をする。

それを繰り返していたほうが「医療をしている感」が
あります。
なにせ点滴や腹水穿刺は、医者にしかできませんから。

患者さんも家族も「何かしてくれた感」があるでしょう。
それで満足ならばいいじゃないかという考えもあるかも。
たとえ、それで苦痛が増大して寿命が縮まったとしても。

ほとんどの人は「待つこと」の効用を知らない。
待っているうちに、自然に水が引くことも。
自然に熱が引くことも。

雨が降って学校の校庭に水溜りができます。
ひしゃくで水を書きだす人と、一晩待つ人がいます。
もちろん、一晩待てば、自然に水は引きます。

大きな悲しみに襲われて、心に大きな傷ができます。
大慌てで薬を与えてくれる医者がいるでしょう。
しかし話をよく聞いてただ寄り添うだけの学生もいる。

「待つ」ことで傷は癒され、苦痛が改善される場合がある。

もちろん時と場合によります。
救急救命現場では、一分一秒も待てません。
すなわち、待つ時と待ってはいけない時がある。

その見極めをするのが、「医学」だと思います。