《1473》 「待てる」救急隊員はいるか? [未分類]

一般に、救急医療とは、一秒一刻を争う仕事です。
そこには、「待つ」という概念が入る余地はありません。
救急隊員も同じだと思います。

隣のおばちゃんが善意で救急搬送を要請し救急車が到着。
救急隊員が診たら、すでに呼吸停止していた。
すぐにAEDなど蘇生処置をしながら急いで搬送をする。

それが救急隊員の任務です。
しかし数秒間、立ち止まって「このひとは大往生じゃないのか?」
と周囲を見回してくれてもいいんじゃないか、と思う時もある。

つまり救急搬送には、2つがあります。
救命するための搬送、と
病院で死亡確認するためだけの「看取り搬送」。

大半は前者ですが、後者も少しあります。
ご家族は、後になって疑問や後悔が残ります。
あのまま静かに、自宅で看取れば良かった、と。

これを読まれている救急隊員さんに、お願いがあります。
高齢者が自宅で息を引き取っていた場合、そしてまだ温かい場合、
その人に、“かかりつけ医”がいないか、誰かに聞いてください。

周囲を見渡し「緊急連絡先」という電話番号が書かれていないか。
あるいは「在宅ノート」のようなものが置かれていないのか?
もし見つけたら、まずは“かかりつけ医”に御一報頂きたい。

そうすれば、“かかりつけ医”が訪問して
医師法20条に基づいて死亡診断書を書きます。
はやくいえば、救急搬送も病院も関係しなくて済みます。

どうしてわざわざ、このようなことを書いているのか。

それは以前、「看取り搬送」に疑問を感じて、救急隊の署長さんに
「在宅医療と看とりについて説明したい」と申し入れたことがある。
しかし、その時の消防署長さんの回答は以下でした。

「我々は、急病人を一刻も早く病院に搬送することが任務なので
 看取りや在宅医療なんてものとは、関係が無い!」
これには、大きく落胆しました。

実際、私が診ている独居の在宅患者さんが自宅で低血糖発作を
おこしたので、驚いた隣のおばちゃんが救急車を呼びました。
このおばちゃんは一応、私の携帯電話も鳴らしてくれました。

私はそこに行きながら、現場の救急隊員と電話で話をしました。
「その人は、おそらく低血糖発作だろうから、ブドウ糖を注射
すれば1分で意識レベルは回復するので、搬送は必要ありません」。

しかし救急隊員は、私の提案を無視しました。
「我々は、病院に搬送することが仕事です」と言い放った後の、
「アホな町医者のいうことなど聞いておられん」との呟きも。

果たしてその患者さんは、1時間後にタクシーで帰ってきました。
「長尾先生、どうして来てくれなかったの?」と患者さんが怒る。
「行こうとしたのに救急隊が言うことを聞いてくれなかったんよ」

救急隊は、病院しか見ていません。
町医者や在宅医は、まったく視野にないようです。
実際、こうした話を救急隊長さんにしたくても門前払いでした。

「待てる」救急隊員はいるか?

私の知る限り、極めて少ないと思います。
実は、救急隊員さんにも、「待った」ほうがいい場合があることを
伝えたいのですがそうした場が無いので、こうして書いています。

(「待つ」という緩和ケアシリーズ 続く)