成功大学の緩和ケア病棟のカルテを、見せて頂きました。
カルテの最初のページに事前指示書が挟まれていました。
事前指示書とは患者さん自身が人生の最終段階になった時、
「延命処置は希望しない」等の意思表示をした文書のことです。
そこには、家族の同意や本人が指定した代理人もありました。
台湾では2000年から事前指示書が法的に有効になりました。
成功大学の趙可式教授が、日本の映画「大病人」を国会議員
一人ひとりに見せて説明し、法的担保の必要性を説得した結果です。
2000年に法制化され、その後、2002年、2013年と
2回改正されて、現在の形になったそうです。
現在、成功大学で使われている事前指示書を頂いて帰りました。
4枚つずりで、原本は厚労省に届きます。
カルテにはピンク色の控えが挟まれていました。
赤は台湾では縁起がいい色だそうです。
3枚目の控えは、家族の保管用です。
4枚目の控えは、倫理委員会に行くようです。
書類によって、控えの紙の行き先が少しずつ違います。
私が今回、台湾を訪問して新しく知ったことは、
「事前指示書」に、いくつかの書式があることです。
法律はひとつですが、書式は4種類ほどありました。
ひとつは、病人さん用です。
病院に入ってから、リビングウイルを表明する人のもの。
医療代理人を定めることができます。
二番目は、健康な人のためのもの。
右上に「民衆版」と書かれています。
本人用が、2種類あることを今回知りました。
あと、急変時に「蘇生処置不要」という書類も。
日本ではDNRと呼ばれるものですが、
すでに多くの病院や施設ですでに実践されています。
なんと、家族用の指示書もありました。
本人のリビングウイルや事前指示書が無い場合のためのもの。
家族が署名すればそれで延命治療が中止できるというのです。
最後は、事前指示書を「撤回」のための書類です。
本人が撤回することも、家族が撤回することもできます。
この書類で台湾の厚労省への届けもいつでも撤回できるのです。
家族だけの書類には驚きましたが、撤回書類で担保されていました。
本人の意思と家族の意思の整合性をとるために、昨年の改正まで
さまざまな工夫がなされたようで、御苦労のあとを感じました。
以上は台湾の厚労省のホームページからダウンロードできます。
台湾の人口は、2300万人と日本の5分の1です。
そのうち事前指示書があるひとは、30万人強だそうです。
日本尊厳死協会の会員数(12.5万人)の、約2.5倍です。
人口が5分の1ですから、リビングウイルの保有率は単純計算で
日本人の12倍くらいかと思われました。
それでも国民全体からすると、日本では0.1%ですが
台湾が、1.3%くらいなのでしょうか。
米国の41%に比較すると、それでもひとケタ以上低い割合です。
昨日の午後は、札幌の市民に尊厳死についての講演をしました。
あの広い北海道でリビングウイルを持つ人は、数千人程度です。
日本人はもう少し自分の終末期に関心を持つべきだと思いました。
欧米とは文化や宗教的背景の違いがあるので単純比較は難しいですが、
ひとつ確実に言えることは、台湾は日本よりもリビングウイルを表明
している人の割合がひとケタ高く、法律でも担保されていることです。
台湾の法律の名前は、「安寧緩和医療条例」といいます。
この法律の日本語訳は以前、このアピタルでもご紹介しましたが、
再度詳しく見て頂ければと思い、掲載させていただきます。
台湾「安寧緩和醫療條例」の内容
2000年6月7日発令
2002年12月11日第3、7条改正発令
2011年1月26日第1、7条改正、第6-1条増訂、第13条削除発令
2013年1月9日第1、3~5、6-1~9条改正発令第一条 本条例は末期患者が治療を受ける意思を尊重し、その権利を保障するために策定する。
第二条 本条例の主管機関は中央において、厚生労働省であり、地方は県庁である。
第三条 用語定義
「安寧緩和醫療、末期患者、救命蘇生医療(心肺蘇生法)、生命維持療法、生命維持療法の選択、立願者(以下本人を訳す)」についての定義です。
第四条 末期患者は安寧緩和醫療もしく救命蘇生医療を選択するかの意思表明書を作成することができる。左記の意思表明書は下記の事項を記述し、本人のサインが必要である。
一、 本人の姓名、国民の身分証明書番号、住所あるいは住居地。
二、 本人が安寧緩和醫療もしく救命蘇生医療を受ける意思表明。
三、 作成の日付。
意思表明書をサインする際には完全な行為能力を持つ二人以上の立会人が必要である。但し、安寧緩和醫療もしく救命蘇生医療を施す医療施設の人員が除外である。
第五条 20歳以上かつ完全な行為能力を持つ人は第四条の意思表明書を作成することができる。左記の意思表明書は本人が意思を伝達出来ない場合、事前に委任する内容を記述し委任状を作成し、代理人を依頼することができる。
第六条 本人または代理人随時意思表明書を撤回することができる。
第六ー一条 第四条第一項または第五条に基づき本人または医療委任代理人が意思表明書に同意すれば、中央主管機関がその意思を国民健康保険書に記載すべきである。その有効性は意思表明書の原本と同等になる。但し、本人或いは医療委任代理人が前条に基づき撤回したら、中央主管機関に報告し、当記載事項を廃止になる。左記の意思表明書は医療機構、衛生機構または中央主管機関に委託されている法人によってスキャンし、中央主管機関に保存してから、国民健康保険書に記載すべきである。もし、国民健康保険書の記載内容が本人の臨床治療を受ける過程における書面の意思表示と不一致であれば、本人の表示に準じる。
第七条 救命蘇生医療を施さない対象は下記の規定に適用する者である。
一、 二名以上の医師によって末期患者と診断された者。
二、 本人の意思表明書を持つもの。但し、未成年者は法定代理人の同意が必要である。未成年者は意思表示できない場合は法定代理人のサインが必要である。
上記第一項の医師は関連分野のある医師免許証を持っていなければならない。
末期患者は意識不明または意思を明確に表示できない場合、代わりに親族の同意書も認められる。親族者がいなければ、安寧緩和醫療従事者に照会後、末期患者にとって最高の利益を図り、医療指示書が意思表示を代行することができる。同意書または医療指示書は末期患者が意識不明或いは明確に意思表示できない前の意思に反する事ができない。
上記の親族の範囲下記のものとする。
一、 配偶者
二、 成年の子どももしくは孫
三、 両親
四、 兄弟
五、 祖父母
六、 曾祖父母、曾孫または三等親以内の傍系親族
七、 一等親の直系姻親
末期患者が上記の規定に適合し、心肺蘇生法或いは生命維持療法を実施しない場合は、元来実施している心肺蘇生法或いは生命維持療法を中止することができる。
親族の同意書は一人でも認められる。親族の間に意見が一致しない場合は上記に定められた親族の範囲によって優先順位を決定する。順位が後の者が同意書を提出しても、順位が前のものと異なる場合は心肺蘇生法或いは生命維持療法を実施せず、中止、撤回する。書面のものに準ずる。
第八条 医師が病状、安寧緩和醫療の治療方針及び生命維持療法の選択する可能性を末期患者或いは家族に告知しなければならない。また患者が病状、選択できる治療方法を知りたいと表示した時告知されなければならない。
第九条 医師が上記の第四条から前項までの内容を診療記録に記載すべきである。意思表示書または同意書を診療記録と一緒に保存すべきである。
第十条 医師が第七条に違反する者は台湾ドール6万円以上30万円以下罰金され、一か月以上一年以下停業処分または免許証を取り上げることになる。
第十一条 医師が第九条に違反するものは台湾ドール6万円以上30万円以下罰金される。
第十二条 本条例罰金、停業処分または免許証を取り上げは主管機関が執行する。
第十三条 削除(その内容は「本条例によって賞罰された罰金は期限内に納めなければ、裁判所による強制執行になる」という条例である)。
第十四条 本条例の細則は主管機関が作成する。
第十五条 本条例は公報日より実行する。
立法に着手したのは1995年であり、第一次に立法できたのは2000年である。
立法の手順:
立法委員提出新法 国会議員が新法案の提出
其他立法委員的簽署 他の国会議員がの連名
若是醫療相關法案則送到衛生署 医療相関する法案なら、厚生労働省に回す
由衛生署提出相對法案 厚生労働署が法案を検討し、法案を再提出する
合併立法院與衛生署法案 国会議員の案と厚生労働省の案を統合する
送行政院審核 行政院(注)の審議を受ける
送立法院黨團協商 行政院に審議された法案が国会の与野党による協議を行う
立法院1讀通過 国会の立法過程に入る
立法院2讀通過 このプロセスの中で全員の国会議員が同意しなければならない。
立法院3讀通過 反対者が一人でも出ていれば法案が通過できない。