先日、日本人間ドック学会が血圧やコレステロールなどの
基準値を大幅に緩和した数値を発表しました。
それを新聞各紙や週刊誌が大きく報道しました。
正常値の設定しだいでは、“病人”さんは2分の1、
いや3分の1にまで一挙に減ります。
財源不足のお上には嬉しいニュースだと思います。
当院でも、治療中断や疑心暗鬼になって質問される
患者さんが続出して、説明に時間がかかっています。
例えば血圧が200あっても治療を拒否する人です。
もし突然死すれば、ご家族から訴えられるかもしれません。
現場の医者はその可能性が高いことを経験で知っています。
しかしメディアの威力の前には、町医者の説明は無力です。
日本高血圧学会や日本循環器病学会や日本動脈硬化学会
や日本糖尿病学会などが基準値を決めていたと思います。
しかしデイオバン事件に象徴される利益相反が判明したばかり。
今後、どちらが正しいのかが議論され、おそらく両者の間に
決着していくのではないかと想像しています。
私はここで、血圧について3点指摘しておきたいと思います。
ひとつは年齢という因子をもっと考慮すべきであるという事。
血圧が150といっても、30歳と80歳では大違い。
前者は放置できませんが、後者は放置してもいいでしょう。
私は年齢という因子が無いことを不思議に思っていました。
年齢とともに、血圧の平均値は緩やかに上昇します。
もう少し「年齢」という因子を考慮すべきだと思います。
もうひとつは、病気=薬、というのは誤解であるということ。
高血圧=降圧剤、ではありません!
高血圧=減塩、減量、運動なのです。
それを、高血圧=薬と考えるから、製薬会社との癒着や
やれ、利益相反だと騒がれるのです。
ここは医者側も反省すべきだと思います。
3点目は、これまでの基準は世界的な潮流であることです。
国内だけで勝手な基準になっているわけではありません。
世界の膨大な数の科学論文の最大公約数が現在の基準値。
死亡者を減らそうと思えば思うほど基準値は厳しくなる。
逆にそんなに減らなくてもいいと思えば、緩くできます。
どこで線を引くかは、戦略的な意味合いも当然含まれてきます。
“病気”という烙印を押すことが血圧測定の目的ではありません。
血圧という簡便なバイタルサインを、生活習慣の見直しに上手に
利用して欲しいというのが、健康診断の本来の目的だと思います。
つまり、数値に一喜一憂するのではなく、大体の傾向を知り、
現実を直視して、まずはセルフケアに活かすことが大切です。
医療の世界においては、極論は人を幸せにしないと思います。