仁徳医専の翌日、台中の南の嘉義という町に行きました。
台中市の南にある嘉義市の面積は尼崎とそう変わりません。
人口は27万人で、古い町並みや嘉義公園は風情があります。
日本人が造った水道施設をはじめ、螺旋状の古い刑務所などがありました。
嘉義の街角にある、某クリニックを見学させていただきました。
このクリニックのオーナーは、複数の施設を経営されていました。
クリニックは日本と似ていましたが、参考になる点がありました。
健康保険証はカード式になっていてICチップがついていました。
受診歴や投薬情報も簡単に表示されるので、お薬手帳は不要です。
重複受診や重複投薬は、医療機関の段階で分るシステムは急務。
このカードにリビングウイルや臓器移植提供の意思表示もできればいい。
日本もこうしたことをやろうと思えば、すぐにできるように思いました。
院内処方で、多剤投薬はあまり無い印象でした。
予防接種にも力を入れていて、インフルエンザは1000円程度で
肺炎球菌ワクチンにも公費助成が出ていました。
子宮頚がんワクチンにも公費助成がついて、かなり実施されたようですが、
日本と同様、副作用の問題が起きて、現在は中止になっていました。
予防接種は町医者の大きな仕事です。
何人か同時に並んで注射を受けられる注射台がありました。
台湾の人も日本人同様、注射が好きなんかなあ、と思いました。
診察時間は、朝、昼、夜と分れていて夜は21時半まででした。
続いて、嘉義キリスト教病院を訪問しました。
この病院は2000床もある、この地域の基幹病院です。
緩和ケア病棟のカンファレンス室において1時間半くらい講演と質疑応答。
一般病棟を覗くと日本と同じで、管をつけられてうつろな目をした
患者さんが沢山横たわっておられました。
そこは日本も台湾も同じ空気に感じました。
成功大学と同様に、腫瘍内科と緩和ケア病棟が同じ階に連なっていました。
緩和ケア病棟は15床で、2、3人部屋が基本で一人部屋はわずかでした。
緩和ケア病棟での安寧緩和医療条例の運用状況も確認してきました。
台湾の在宅ホスピス提供体制についても聞きました。
台湾の在宅ホスピス緩和ケア病棟の医師と看護師が家に行くそうです。
ホスピス病棟の経験がある医師と看護師なので患者は安心できます。
一定の緩和ケア技術の講習を受けた医師のみが在宅ホスピスに従事できます。
夜間の対応はすべて緩和ケア病棟なので、患者も安心だし、医者も楽です。
主治医の24時間対応が無いのが台湾の在宅ホスピスの特徴かと思いました。
非がんの在宅ケアはまだほとんど無いようでした。
在宅ホスピスから在宅ケアが始まるのは自然なことなので、
やがて非がんへと広がっていくのかと思いました。
台湾でも家庭医や総合診療に目覚める医者が増えているそうです。
若い医者には、家庭医学は人気が高い診療科だそうです。
ただ、それは健康診断などが中心で楽だからという理由もあるそうです。
緩和ケアはしんどいので反対に人気が無いのは、日本と違う点です。
一方、台湾でも医療訴訟は増加しているとのことです。
そのため訴訟回避のための講習会も増加していました。
台湾でも10年前の日本の医療崩壊と同様のことが起きています。
台湾では、漢方薬と西洋薬の併用は保険診療では認められていません。
漢方薬は専門薬局で薬剤師さんが処方していました。
西洋薬と漢方薬の併用が認められている日本は幸せだと思いました。
台湾の在宅医療は、全体にまだまだ黎明期に思えました。
組織的な動きはなく、自然発生的な段階です。
訪問診療をしようと思えば台湾厚労省の許可が必要など規制も多い。
たとえば翌日から訪問診療を開始したくても、役所の許可が必要です。
こうした制度が煩雑すぎて訪問診療の開始が難しい、
と現場の在宅医は愚痴をこぼしていましたが、その点、日本の在宅はやり易いと感じました。
また1時間以上かけて訪問するケースもあって効率が悪く、
ボランテイア的な要素が大きいとのことでした。
ただ多職種連携は日本よりもできている印象を受けました。
台湾の訪問看護は看護師がマイカーを運転して訪問します。
1時間以上かかる場所が多くあり効率は良くありません。
夜間対応はすべて病院なので看護師の負担は少ないそうです。
それでもバーンアウトする看護師が多いのは日本と同じです。
あと、台湾の在宅医療は、末期がんのみに認められていました。
がん以外の在宅医療はまだまだのようでした。
病院のホスピス病棟の所属医と看護師さんが頑張っていました。
台湾は保険診療の規則が日本より厳しいなあ、と感じました。
今回も、台湾の医療や医学教育には見習う点が沢山ありました。
機会があればまた勉強しに行きたいと思いました。