がん拠点病院の専門医が2人ともが「手術で完治する可能性が十分ある」
と診断した進行胃がんを、手術しないで自然に任せた男性がいました。
86歳の方です。
結果から申しますと、私のクリニックに来られてから
ちょうど1年半後に、自宅で穏やかに旅立たれました。
もう少し詳しく経過を紹介いたします。
半年後から胃の痛みが出ました。
がん性疼痛(とうつう)と考えて、麻薬の投与を始めました。
よく効きました。
早期からの緩和ケアは、正解でした。
おかげで、また少し元気になりました。
旅行や講座などの社会参加をたくさんされていました。
8カ月目から、目にみえて体重が減ってきました。
11カ月目から、激しい腰痛が始まりました。
ご本人の希望でPETなどの検査をしましたが、転移ではなく老化でした。
結局、1年4カ月間、私のクリニックに定期的に通院されました。
そしてある日、SOSの電話がかかってきて、初めての往診。
広い家にたった一人で住まれていました。
家はきれいで清潔でした。
家族が時々、来られていたようです。
私のクリニックからは、車で25分くらいの距離でした。
しかし徒歩3分のところに、ベテラン在宅医がいました。
患者さんに相談して、何かと便利であろうすぐ近くの在宅医に紹介しました。
その約2カ月後に自宅で、平穏死されたそうです。
亡くなった直後に、ご家族から携帯電話があり旅立ちを知りました。
本人が強く望んでいた自宅での穏やかな最期は、ちゃんとかないました。
近著「病院でも自宅でも満足して大往生するための101のコツ」のとおり。
絵に描いたような平穏死。
終活やエンディングノートをバカにする人もいます。
医者や学者。
私は上から目線だと思います。
なぜなら、本当に穏やかな最期が約束されるからです。
ただし、家族が邪魔をしなければ、の条件がつきますが。
もちろん、事故で不慮の死となる可能性はありますが、それはしょうがない。
天国からほほ笑んでおられるその患者さんの笑顔が目に浮かびます。
86歳という年齢なら、こうした選択は素晴らしい選択です。
さすが筋金入りの日本尊厳死協会の会員さんでした。
しかし・・・
もしこれが、86歳の半分の43歳の男性だったら・・・
もうこれ以上書きません。
この3日間、読んで下さったみなさま、それぞれのご意見があるはず。
それをいつかどこかで、思いっきり語り合えたらいいですね。
きっと朝まで議論しても話は尽きないことでしょう。
しかし講演会では、そんな難しい話をたった1~2時間でしないといけない。
正直、毎回イントロだけで終わってしまうので、あまりやりたくありません。
こうしていても、たくさんの患者さんの毎日の現実に向かっています。
在宅患者さん全員のファーストコールは、24時間365日、すべて私。
総論よりも、一人ひとりの物語に寄り添うほうが性に合っているようです。
PS)
今夜が近畿地方です。
台風に備えてください。