《1640》 再発がんを放置したいと言う73歳 [未分類]

先日、もう一人、肝臓がんを治療せずに様子を見てほしいと
いう73歳の方が、遠方より外来に来られました。
私の著書を読んで来られたそうです。

この方もアルコールが好きな方で、アルコール性肝硬変症
をベースにした肝臓がんが2個発見され、外科手術をしたと。
しかしその半年後に、また新たながんが2個見つかったと。

当院での腹部エコー検査の画像では、1個は14mmで
もう1個のがんは10mmでした。
どちらもまだ小さいですが、確実に再発と言えるでしょう。

切除したがんは完治したのでしょうが、手術時にすでに
他にいくつかのがんの芽があり、それが大きくなったのでしょう。
肝臓がんでは、このようなことが時々あります。

多中心性発がんといって、あちこちががんができやすい状態に
なっていて、多発性にがんができるのです。
このような病変をモグラ叩きのように追いかけるのかどうか。

その男性は、お腹を見せてくれました。
大きな傷があり、ケロイド状に腫れていました。
「これだけやったのに、再発って……」と言わんばかりの顔です。

病院では、2つの再発病変に対して肝動脈塞栓術(TAE)
を勧められたそうです。
実は、私も同じことを言いました。

しかしその男性は「もういいんです。1回手術して懲りました」
と静かに言われました。
私はその方の気持ちがわかる気がしました。

説得しましたが、強固に再治療を拒否されるので、そのうち私の
言うことも少し変わってきました。
「まあそうやなあ。私が同じ立場だったら何もしないかも」と。

昨日の男性同様、おそらくこの方も自然経過を診ることになるはず。
患者さんが来てくれる限り、どこまでも診させていただきます。
ただし往診は16Km以内でないとダメだから、できませんと。

最初からハッキリそう言いました。
昨日の男性は2年間、24回も診させていただきました。
さてこの男性は、どれだけのご縁があるのでしょうか。

私は「がんを放置しなさい」なんてことは言っていません。
若い人は早期発見・早期治療で治るがんも沢山ありますよと、
今の時代のごく当たり前のことを言っているだけの町医者です。

まだ助かる可能性があるがんを放置している方を4人紹介しました。
実は、ほかにも何人かいます。

  • 早期がんを放置する場合
  • 進行がんを放置する場合
  • 再発がんを放置する場合

いろんなケースが実際にあります。

さらに

  • 臓器別
  • 悪性度別
  • そして何よりも年齢別

で、分けると、それぞれで言うことが変わってきます。

今日、申し上げたいことは、

  • いろんな事情で、助かる可能性があるがん、治療効果が十分に期待されると予想される範囲のがんを治療しないことは、ある。
  • 町医者でも、そうしたがんの自然経過を見ることは、ままある。いやもしかしたら、町医者だから、なのかもしれませんが。

あとひとつ。

患者さんの自己決定で、以上を選択するのは自由でしょう。
しかし医師が、助かる可能性のある若い人のがんを「放置せよ」
なんてことを言うことは、現代医療ではあり得ないということです。

なぜならば、助かる可能性のあるがんを治療したら完全治癒し、
放置したら死ぬ症例を、どちらも結構な数を見ているからです。

それを運命論で片づけることを、私は「後出しジャンケン」と
呼んでいますが、そんな詭弁をマスコミは面白可笑しく取り上げます。

しかし助かる可能性のあるがんを、医師の指示で「放置」した結果
亡くなった場合、裁判に訴えられたら医師は100%負けるでしょう。

「がんの診断・治療の遅れによる利益損失」を問われるはず。
いいも悪いも、それが、現代社会の常識・社会通念なのです。