《1641》 がんを放置しても患者は放置しない [未分類]

先日、乳がんの患者さんが、かなり遠方から相談にみえました。
私のクリニックでは、セカンドオピニオンはやっていないのですが
その方は、「サードオピニオン」を求めて突然やって来られたのです。

乳がんで手術、抗がん剤、放射線治療を受けている最中ですが、
ある医師のセカンドオピニオン外来を受診されて不安に襲われた。
というのも、その医師にそれまでの経過を全否定されたそうです。

「あなたのがん治療はすべて無駄であるので、すぐにやめなさい。
 ホスピスに行きなさい」という内容の手紙を見せて頂きました。
その1枚の紙をもらうだけで、3万円もかかるそうです。

その方はまだ若くて、元気そうです。
普通に歩けて食事もできますし、痛みもありません。
どう見ても病人には見えないけれど、放置とホスピス行きの指示だけ。

10分ほど話すうち、その方は、私の前で泣き伏されました。
付き添いの家族もつられるように泣き出しました。
そのセカンドオピニオンを受けたことを後悔していると言われました。

後悔だけでなく、強い怒りも抱いているようでした。
それまでのがん医療を全否定されて、おまけにホスピス行きだけを
指示されたことに対して、私の意見を求めてきたのです。

私は、

  • がんの治療は、それまでの主治医と納得するまでよく相談すること
  • もし治療を中止したければ、その旨をはっきり伝えること
  • まだ元気なので、ホスピスに入院する必要はないこと
  • 緩和医療が必要になれば、それをやっている町医者や在宅医もいること

などを、お話して、慰めました。

この1週間書いてきたように進行がんを放置する場合はいくらでもある。
また治療を患者さんの希望で途中から放置することも、いくらでもある。
そしてがんがどうであれ緩和医療はずっと傍にあることも説明しました。

その患者さんは、「魂」の痛みに苦しんでおられたのです。
不安で不安で胸がいっぱいになられていたのです。
そうした心の叫びを聞いてくれる医師を探し求めておられたのです。

がんを放置するのは、突き詰めて言えば、本人の勝手です。
私のほうからボクシングのタオルのようにストップをかけることもある。
いずれにせよ、患者さんを放置することは絶対にしたくありません。

そうして話を聴くこともスピリチュアルケアであると思います。
緩和ケアとは身体的痛みに対する麻薬投与だけではないのです。
そんな話をするうちに、患者さんは笑顔になって帰られました。

ちなみに町医者のサードオピニオンの値段は、810円でした。
その方は、「ほんとうにそれでいいのですか?」と信じられないような顔。
「老人さんなら270円ですけど」とつけ加えると、少し納得されました。