先日、ステージⅡの大腸がんを放置している55歳の方からの
お手紙をご紹介しましたが、アピタル編集部と長尾個人宛てに
いろんなご意見が寄せられましたので、以下にご紹介します。
AさんとBさんはアピタル編集部に、
C、D、E、Fさんは直接私に届いたお便り。
ランダムに並べてみました。
その55歳の方は、広報誌のようなものでも発信して
みなさまの意見を求めていらしたので参考になるはず。
そして迷っている方にも、とても参考になると思います。
【Aさんからのお便り】
私の夫は大腸がんのステージ4です。抗がん剤が効いて手術に迄こぎつけました。始めは手術不可能の状態にありました。この方はまだ助かる余地が充分あります。どうか、藁にもすがる思いで手術をしてください。
今ならまだ間に合います。今なら助かります。がんのタイプは様々です。他人の意見で自分の命を左右されてはいけません。
1日も早く手術に臨むべきです。今ならまだ間に合います。貴方は助かります。ほっておくと命を縮めます。後で後悔しても遅いですよ。
【Bさんからのお便り】
私は、53歳の普通の会社員です。13年前に大腸がん(ステージ3b)の手術をし、主治医から「綺麗に取れたから普通の生活をして下さい」と言われ、1カ月半後には復職、2カ月後には海外出張もしました。
その後、普通に生活して来ましたが、3年前に脳と肺への転移が分かり、脳は開頭手術と放射線治療、肺は化学療法と陽子線治療を行い1年半かけてようやく安定しました。
この時の手術もほとんど痛くありませんでした。治療開始時に新しい主治医から「10年前なら余命宣告してたかもしれないけど、今は新薬があり一緒に頑張りましょう」と言われました。私は、30年以上製薬会社に勤務し、医学や薬の進歩を実感しております。
今では、分子標的薬が出来、がんの遺伝子解析により効果のある分子標的薬を選択する時代になりました。私は、素人なりに私の場合分子標的薬と陽子線治療が奏功したと思ってます。今では、全国で400院強のがん拠点病院が出来、全国の病院のがん治療レベルは平準化してます。13年前だったら私のようなステージ4患者の5年生存率は5%以下だったと思います。
私が特別なのではなく、最新のデータではステージ4患者の5年生存率は3割ぐらいだと記憶してます。初発のステージ2の大腸がん患者なら開腹手術ではなく、より患者負担の少ない腹腔鏡手術だと思われます。
がん患者全体の5年生存率は60%を越えてます。がんは「死に直結する病気」でなく、「長く付き合う慢性病」になっていると思います。私が1回目でも2回目でも手術を選択してなかったら、子供達の成長を見ることも女房との戯言会話することは出来なかったのではと思ってます。
また、仮に今後、転移や再発が見つかったら、主治医と相談し、手術でも化学療法でも最適と思われる治療を当然受けます。
1人の(偏屈な)医者の考えと世界中の医師や研究者が評価している標準治療とどちらが妥当性があるでしょうか? 私は、世界中の医師や研究者の「がんを治したい」との熱い思いを信じて欲しいと思います。
私だってがんと言われた日、転移が分かった日、女房の前だけでは、たくさんたくさん泣きました。でも、落ち込んでばかりいられないと改心し、粛々と今でも治療を受けてます。
まだ心配であれば、県内のがん拠点病院等でセカンドオピニオンを聞いてはいかがでしょうか。がんは様々ですが、一般的には初発のステージ2の大腸がんなら、かなりの確率で治ると思われます。まだ、十分助かります。私ももうすぐ54歳、来年は銀婚式です。お互い人生もっともっと楽しみましょうよ。
【Cさんからのお便り・1】
近藤先生を崇拝しておられる男性、これはこれで幸せなのだと思う。
ここまでしっかりと納得されているのだから、他人がとやかく言う必要はない。寿命が短くなっても、誰を責めることもない。
ただ、実は迷っていて文章にすることによって自分を納得させようとしているのならば、不幸だが。
【Cさんからのお便り・2】
それがこの人の出した「人生」なのでしょう。「命」のスパンなのでしょう。
でも進行していき、最後モルヒネ含む多くの点滴に繋がれ、もがき苦しむ姿が想像できます。
その時に聞いてみたいですね、手記を見たいですね。「その選択をして幸せだったかどうか」を……
そう時間はかからないでしょう……
【Dさんからのお便り】
去年の今頃、母の在宅での平穏死のために介護休暇を取りました。もうすぐ1年です。その間、愛犬が虹の橋を渡り、父に肺がんが見つかりました。
80歳を過ぎた父ですが、他臓器に転移がなく手術をしました。手術しなければ余命半年でした。55歳で胃がん、75歳で膀胱がん、80歳で肺がんと3ヶ所目のがんです。ある程度進行はしてましたが転移がなく、たちのいいがんばかりです。
父はきっと来年もキンモクセイの香りを感じると思います。55歳の彼はどうでしょうかね……
同世代の妻として言うなら、一緒に老後をのんびり、楽しく暮らしたいので……手術を勧めますね。がんは治る病気、それは適切な治療を受けたうえでのことなので……何もしないのはモッタイナイですね。
人は必ず遅かれ早かれ、死にます。残された家族にも満足した死でありたいと思います。
【Eさんからのお便り】
最近、北海道の病院で79歳の身内が早期胃がんで腹腔鏡手術により胃全摘しました。まだ2カ月も経っていませんが、食事も思っていたより普通に出来るし、外科の先生が負担が少ない方法で手術してくださったのがよかったです。
ESDが失敗(?)不可能とのことで中断された後の外科手術でしたので、外科の先生の納得できるお話を聞けなかったら「放置」を身内として強く勧めた可能性が高かったと思います。手術をうけたほうがよかったのかどうか、ということは経過がとても順調なので考える必要もないのは幸運だと思っています。
最近、apitalで長尾先生の記事を興味深く、時にお腹をかかえて笑いながら読んでいます。こんないいお医者さんがいるものなのかと心が温かくなります。きっとみんなそんなふうに想うに違いありません!
サイトの中しかまだ読ませていただいていませんが「平穏死」に関してもとても共感します。
早期胃がんでしたが外科の手術さえ即座といえるほどに受けると決断したのは本人でした。理由は病院も医療も信じているし、歳をとって体力がなくなってからだとダメだから今のうちにとってしまうのだと。身内としての私はそういう信じきった人間を裏切るような医療なら許さないぞと、そういう気持ちでしたが、今は日々平穏に過ごせて仕事もがんばれることしか考えていません。
ところで「放置」は魅力的な言葉ですね。なにもしなくても治るというイメージを私なら持ちました。「グレーゾーン」はいったいどこまでなのか、良性の早期がんの場合、いまだに実はよくはわかりません。ですから手遅れになりキケンかもしれなくてもこわいから「放置」にすがりたくなるかもしれないです。もし自分ならですが。
でもこちらの長尾先生のように現場のお医者さんのご経験に基づいた文章は何よりのよりどころになります!
【Fさんからのお便り】
放置をすると決めるということは、死を覚悟するということだと私には思えます。そして、それで本人がいいのならば、仕方のないことだと思います。たとえ家族が反対をしても、自分の意思がそうであれば、誰にもとめることはできません。
手術をしても、放射線治療をしても、抗がん剤をしても、全てに副作用があります。やってみないとわからないことが医療です。誰かのせいにしても、どうにもなりません。
人は個性を持った生き物で、同じ人はこの世にはいません。エビデンスだけを見ても、それは同じ種類のガンを患ったにせよ、他の方々のデータであり、それが自分自身に「絶対に」有効であるとは限らないのではないかと思います。多くは製薬会社が作り出すデータではないでしょうか。
自分で決めなければなりません。
「ガン」「認知症」を、他人事と思っている人が多くいますが、実際に自分にとって大切な家族や友人たちが、そういった病気になり看病をする側に立つと、自分自身の将来を考えます。
自分自身ならば、どういう治療を受けたいのか。プライオリティは何なのか。何をどうしたいのかをハッキリとしておかねば、私は怖いです。
人の意見に左右され、自分の考えを受け入れてくれないと拗ねている、その時間にできることがあるはずです。
治療を受けるのかどうか。受けないのならば、最期はどうしたいのか。受けるのならば、何を基準に、どういった場所で受けるのか、どれくらいの費用が使えるのか。
他の病気と異なり、ガンは再発する可能性がある病気です。再発時にはどうするのかも頭に入れ、緩和治療も考えておくべきだと私は思います。
また、遺される家族のことはどうするのか。葬儀はするのかどうか、遺産はどのように分けるのか、形見分けはどうするか。
ガンは時間がある病気です。その間に様々なことを考えることができます。そして、同時に家族や友人と、宝物のような時間を遺すこともできます。
考え方で変わってくることが、あるはずです。