80歳代の肺がんの方を在宅医療で診るようになり、はや半年が経過。
さんざん抗がん剤治療をやった挙句、もはや治療の余地なしと判断。
病院でがん終末期と判断されて、早めに抗がん剤を中止した例です。
この方は、この半年間、どんどん元気になってきています。
どこまで元気になるのだろう? と思うくらい元気を回復しています。
死を覚悟した退院直後が嘘のように、自宅療養を思い切り楽しんでいる。
驚いたことに、腫瘍マーカーが今月も先月も少しずつ下がってきました。
終末期なので自然に任せていたら、すべてが改善してきているのです。
おそらく半年前は、抗がん剤で自然免疫も抑えられていたのでしょう。
抗がん剤を止めて、がんを放置したら、すべてが改善!?
嘘のような本当の話が、リアルタイムで進行中です。
実は私の経験では、肺がんでこのような症例が多いのです。
ということは、素直に考えて抗がん剤が悪さをしていたとしか思えません。
難しい理屈など関係無く、素直にそう考えて間違いないと思います。
同様の3例を、11月の日本肺がん学会で講演発表して専門医に問います。
80歳を超えた人に抗がん剤治療をすることに、私は明確に反対の立場です。
遺伝子検査で効く可能性がある分子標的薬で、かつ本人が希望した時だけ
にするべきなのですが、実際には80歳以上でも広く行われています。
このように年齢で線を引くと「エイジズム(年齢差別)」と怒る人がいます。
しかし人間にとって「時間」という尺度はもっとも公平な指標であり
もしこれに勝る指標があるのであれば、教えてほしいくらいです。
私は、一連の“がんもどき議論”や“放置療法議論”の中で決定的に
欠けているものは、「年齢」という因子だと思います。
それを抜きに議論するので、議論にならないのです。
こう言うと、また異論が飛んできそうです。
- じゃあ若ければ、害が大きくてもいいというのか?
- 日野原先生みたいに100歳を超えても元気な人もいるじゃないか
- 年齢だけで線を引くのは単純すぎる!
などなど。
いや、年齢がいちばん単純だからいいのです。
誰にでも分かりやすいのです。
やってもほぼ平均寿命まで、と考えるのがいちばん自然ではないのか。
先週、大病院の循環器のスタッフ達との情報交換会に参加しました。
その席で「当院では100歳を越えても心臓カテーテルをやります」
とスタッフ達が、自慢げに明言されていました。
たしかに100歳を超えた心臓手術も行われています。
そう考えると80歳はどうなのか? という気もします。
しかしカテーテル手術と抗がん剤治療は全く別物です。
抗がん剤の場合は、80歳で一応の線を引くべきだと思います。
そして“がん放置療法”とは、実は80歳以上の話ではないのか?
それを40歳も80歳も一緒に議論するので、まとまらない議論になるのです。
私は「年齢」という単純な因子が最大のインパクトを持つ、と考えています。