《0165》 医師の過重労働 [未分類]

今月は、医療をめぐる社会的な話題を中心に書きます。

先日、テレビを見ていたら、医師の過重労働問題が
ドキュメンタリー映像で取り上げられていました。
見られた方も多いかと思います。

病院勤務医は、当直を含む36時間連続勤務が当たり前。
「そんなはずはないだろう」、と思った方もおられるでしょう。

しかし私自身の経験では、これが日常そのものでした。
ほとんど寝ていない当直明けでも、そのまま仕事を続ける。
外来、検査、内視鏡治療……と、延々と続きます。
外科医なら、長時間の手術にも入ります。

朝の申し送りを終えて帰ることができる看護師さんを羨ましく思いました。
「いいなあ、帰れて……」と。

医師は、重症の患者さんがおられると、2~3日帰れないことも。
帰れた、と思っても、すぐに電話で呼び戻される。
眠りに入った、と思っても電話でまた呼ばれる。
私が勤務医の時代は、それを拒否することは全くできませんでした。

会社では、残業が1カ月平均80時間を超えたら過重労働と言います。
直近1カ月の残業が100時間を超えると、産業医の面接が必要です。

しかし一昔前まで、病院には過重労働という概念がありませんでした。
医師とはそのような職業だと皆が思い、頑張ってきました。
現在も、病院で激務に耐えている医者が全国に大勢います。

当然、体の弱い医者は病気になります。
患者さんの中には、医師はいくら叩いても潰れないだろう、
眠らなくても平気だろう、と思っている方がいるかもしれません。

しかし、当たり前ですが、医師も普通の人間です。
うつ病になって自殺した、知り合いの医師もいました。

当直明けの注意能力はビール1本飲んだ時に相当します。
振り返れば、酒に酔ったような状態で難しい内視鏡手術をしていました。
よく、事故が起きなかったものです。

酒を飲んで車を運転すれば大変な事件になりますが、
当直明けにそのまま手術をしても、なぜか事件にはなりません。
こちらの方が、直接人命に関わることなのですが……。

病院勤務医に本気で労働基準法を適応したら、全国ほとんどの病院長が、
労働基準法違反で逮捕される事態になるそうです。
すると、病院は実質閉鎖され、患者さんは困ります。

そこが現在の病院の労働問題の一番難しいところです。
そうならないように、医師の労働環境も変えなくてはと、微力ながら活動してきました。
それが、拙書「パンドラの箱を開けよう」のタイトルに込めた意味です。