《0166》 開業に「逃げる」医師 [未分類]

労働時間が長く、訴訟リスクの高い病院の勤務医から
開業医に逃げ出す医師が、この10年くらい、続出しています。
いわゆる、開業ラッシュなのです。

私自身も15年前に開業医になった理由の一つは、
過酷な勤務医生活にありました。
それだけではありませんが、当直のない世界に行きたかった。

いざ開業してみると、今度は、患者さんが来ない暇な生活になりました。
実際どうやって昼休みを過ごそうか、それくらい時間が余っていました。
継承開業ならいざ知らず、新規開業は、立ち上げに時間がかかります。
しかし、次第に忙しくなります。

最近、開業されたばかりの医師が私に言いました。
「長尾先生、開業医は、9割が雑用ですね」と。
「そうです、分かってくれますか」と、私。

開業医は、時間がある程度自由になる一方、
雑用だらけと言ってもいい職種です。
労務管理、便所掃除、電球切れの対応……。

実際、私も、それをやってきました。
だから、「勤務医から開業医に身を転じるのは、
海外に移住するくらいのギャップがある」と言う医師もいます。

開業医は、個人事業主ですから、何事も自己責任です。
自院の職員には、健康診断を実施する義務がありますが、
自分自身に行う法的義務はありません。

医師の過重労働は、特に、小児科、産科婦人科、外科という
重症患者さんを扱う診療科において特に顕著です。
人の生死に関りにくい診療科を選択する医師も増えました。

医師不足が議論されていますが、医師の偏在(診療科や地域)、
そして、病院の勤務医不足の方が本質だと私は思います。
ですから勤務医の労働環境改善が、急がれます。

診療報酬改定の季節になると、開業医と勤務医の収入比較が報道されます。
サラリーマンと零細企業の経営者の収入を単純比較できないのと同じで、
簡単に比較できるものではありません。

最近、開業医から勤務医に転身した医師が嬉しそうに語りました。
「長尾くん。勤務医はな、気楽やわー!」
このように、勤務医→開業医→勤務医と、身を転じる医者も出てきました。

さらに、当院には様々な経緯で出会った「勤務医」が働いています。
よく「開業医か病院勤務医か」で医療が論じられますが、正確には、
「診療所勤務医」という新しいポジションの医師も増えてきたのです。