《1663》 介護療養病床への5要件って何? [未分類]

昨日の新聞に「介護療養病床存続へ」という活字がありました。
「これってなんのこと?」という質問を何人から受けました。
あまり耳慣れない言葉かも知れませんが皆様の周りにあります。

長く療養する人のための入院ベッドのことです。
医療保険を適応する「医療型」と、介護保険適応の「介護型」があります。
38万床(2006年)のうち、医療型が25万床で介護型13万床です。

厚労省は、2006年に、こう発表しました。

  • 医療型25万床を15万床に減らして
  • 介護型13万床は、2017年度末に全廃しますよ

と。

しかし一昨日の会議で、この大方針を大転換をすることが決まったのです。
現在7万1千床ある介護療養病床を、2つに分けるというのです。

「療養機能強化型(仮称)」と「その他」です。
そして前者は存続させましょう、という転換方針なのです。
ただし、前者には5つの要件が課せられました。

  1. 合併症のある認知症の方が一定割合以上いる
  2. たんの吸引や胃ろうなどの方が一定割合以上いる
  3. 終末期ケアを受けている人が一定割合以上いる
  4. 生活機能を維持改善するリハビリを行っている
  5. 地域に貢献する活動を行っている

この中でも、私は2と4に注目しています。

現在、在宅療養できない認知症の人は、施設か精神科病院に行きます。
施設では夜間は看護師もいないので、医師の電話が何度も鳴ります。
医療が不要な高齢者など、現実にはほとんどいないのです。

箱モノに入ったならば、そこには「管理責任」が生じます。
本人や家族が「放置してくれ」という意向でもそうはできない。
それが「箱モノに人を入れる」という事の宿命なのです。

病気になった時、行き場の無い認知症の人が増えています。
病気があっても、認知症があるだけで入院させてくれない病院もある。
結局、中途半端な施設に入り、中途半端な医療になることが現実にある。

そして慢性期のリハビリは現在、軽視されています。
リハビリ病院の対象者は急性期の方だけで、慢性期は対象外です。
要介護認定者は、介護保険の訪問リハビリで対応する仕組みです。

しかしリハビリとは、機能を維持するだけでもいいと思います。
もしくは、機能が低下する勾配を緩めるだけでもいいです。
すべての病める人の根底にあるのが「リハビリ」という思想のはず。

社会的入院を減らす目的で、療養病床削減政策が提唱されてきました。
しかし現実には、高齢の認知症の寝たきりの方が、高度急性期病院に
救急車で運ばれて、入院・加療しているのが現実です。

そんな状況の中、いったん決めた方針を大転換したことは大英断で、
私自身も喜んでいます。
日本国民は、良質な慢性期医療も受けられる療養環境を希望しています。

療養病床は、かつては(今も?)老人病院とも呼ばれました。
あるいは、もっとひどい表現で『姥捨て山』とも。
たしかに、そう思いたくなるような病院も現存します。

そんな病院は、今回の転換で「その他」に分類されて
介護老人保健施設への転換が促されていくことでしょう。
つまり、優良老人病院のみが生き残れるという政策なのです。

実際、日本慢性期医療協会では、優良老人病院を目指して
認知症ケアをはじめ、様々な研鑽を重ねています。
姥捨て山のイメージではまったくありません。

「有料」老人ホームが、「優良」とは限りません。
不良な施設はむしろ無い方がい、いとさえ思う時があります。
療養病床も本当に「優良」な療養病床だけが存続するのです。

ところで、何が「優良」なのか。

それは私が思うには、

  • 口から食べることを最期まで支援してくれる
  • 移動という尊厳を大切にしてくれる
  • 排泄ケアを重視する
  • 毎日リハビリがある
  • 緩和ケアが充実している

そして

  • 平穏死させてくれる

です。

療養病床の中では、平穏死ができる病院がどんどん増えています。

日本慢性期医療協会に所属している1000を超える
病院のスタッフは、学会を開催したくさんの研修を重ねています。
再来週も熊本で大きな学会があり、私も参加します。

 http://www.kyusanko.co.jp/conv/jamcf22/

ばあちゃん……」という本で、劣悪な介護施設の話をしました。
どんな介護施設でも医療は必要ですから、いっそのこと、療養病床
を充実させて、そこにいいケアを持ってきた方がいいのではないか。

社会的入院の温床になる、という指摘もあるでしょう。
財源が無い、という指摘も当然。
しかしそこは「包括制」(マルメ)という制度で、乗り切るべきです。

町医者に身をおいていると、綺麗事だけではすまない現実に対峙します。
医療が必要な認知症の人にとって、自宅以外の居場所も必要なのです。
「良質な慢性期医療」が無いと、多くの国民は満足しないのが現実です。

今回の厚労省の転換は、そうした慢性期医療を重視したものです。
みなさまは自分の周囲の療養病床がどんな施設なのか、よく見てください。
入院されるのなら、生き残れる病院を選択したほうがいいでしょう。