町医者の世界では、冬が近づくと患者さんは徐々に増えます。
夏より冬のほうが断然、患者数が多くなります。
エボラのせいか、インフルエンザの予防接種も例年より多いです。
さて、「血痰が出る」と訴える人が時々おられます。
当然、肺結核や肺がんを疑ってさまざまな検査をします。
胸部レントゲンに加え、痰そのものの検査が重要です。
実は、肺結核より多いのが肺非結核性抗酸菌症(MAC症)です。
この30年間で6倍に増加しています。
特に喫煙歴の無い中年女性に増加しています。
肺結核は人から人へうつる伝染病ですが、MAC症は
人から人へ感染しないのが最大の違いです。
MAC症の菌は、自然界に広く存在するいわゆる弱毒菌です。
結核は、薬で治る時代です。
しかし、よく似たMAC症には、完治させるお薬がありません。
そして経過が何十年にも及ぶことが特徴です
現実には、抗菌剤を使うか使わないか、迷うことが多い。
どうせ完治はしないのですが、進行を遅らせることはできます。
実際には、結核のお薬の組み合わせやクラリスロマイシンを使います。
お薬を飲むか飲まないかは、年齢と重症度で決まります。
50歳なら治療しますが、80歳なら放置する場合があります。
若い人ならお薬ではなく、手術で肺を切除する場合もあります。
若ければ治療をしたほうがいいのがMAC症。
迷う場合は、呼吸器専門医に紹介します。
薬を使う場合は、数年以上の長丁場になります。
一方、高齢者や在宅患者さんは、経過観察となる場合が多いです。
実際には、本人や家族との話し合いで決めることが多い。
このように、数は結構多い割になんとも説明しにくい病気が、MAC症。
繰り返しになりますが、MAC症は人から人にはうつりませんし
伝染病では無いので、保健所への届け出も無用です。
増加している割には市民にはあまり知られていない、不思議な病気です。