今日も、医療事故の取り扱いを巡る状況に関して紹介します。
「医療事故調査制度の創設に対する日本救急医学会の意見」として
埼玉医科大学総合医療センターの堤晴彦病院長が講演しました。
堤氏は冒頭「今日は日本救急医学会ではなく、救急医療の現場で働く
一人の医師の立場から発言する」と断ってから発言されました。
問題追及の矛先は厚労省、患者側弁護士、検察、メディアに及びました。
まず厚労省については、医療事故調査制度を創設する狙いが
「調査権と行政処分権を得る」ことであれば、
「いまだに(2008年の)大綱案の議論が繰り返されている。
これでは悪代官に十手を渡すようなもの」と問題視されました。
しかし、厚労省の「医療事故調査制度に関するQ&A」サイトには、
「WHOドラフトガイドライン」に準拠すると記載されていることから、
「大岡越前のような官僚も厚労省内にいることが分かった」と述べました。
厚労省の医療事故調査制度のサイト内には、その制度の目的について、
以下のような「参考」が付記されています。
<参考>
医療に関する有害事象の報告システムについてのWHOのドラフトガイドラインでは、報告システムは、「学習を目的としたシステム」と、「説明責任を目的としたシステム」に大別されるとされており、ほとんどのシステムではどちらか一方に焦点を当てていると述べています。その上で、学習を目的とした報告システムでは、懲罰を伴わないこと(非懲罰性)、患者、報告者、施設が特定されないこと(秘匿性)、報告システムが報告者や医療機関を処罰する権力を有するいずれの官庁からも独立していること(独立性)などが必要とされています。今般の我が国の医療事故調査制度は、同ドラフトガイドライン上の「学習を目的としたシステム」にあたります。したがって、責任追及を目的とするものではなく、医療者が特定されないようにする方向であり、第三者機関の調査結果を警察や行政に届けるものではないことから、WHOドラフトガイドラインでいうところの非懲罰性、秘匿性、独立性といった考え方に整合的なものとなっています。
また第三者機関である医療事故調査・支援センターへの医療事故の
報告対象として、「医療行為に起因しない管理」は外れましたが、
「これは厚労省の保身ではないか」との見方を示しました。
「高齢者の転倒が報告されると、再発防止策を検討する中で、
その原因として病棟の看護師の配置数が少ないことが指摘される。
これは行政としては、非常に困る」と言及されました。
また遺族からは「逃げない、隠さない、ごまかさない」ことが求められ、
賛同するものの「今必要なことは、素直に謝罪できる環境作りではないか」
として、対立から対話への転換が必要だと訴えました。
「ただし、対立を煽るような人たちが加わるとうまくいかない」。
こう指摘する堤氏は、一部の患者側弁護士が医療事故調査で作成された
報告書を、民事訴訟に活用する動きを次のように形容されました。
「悪代官:越後屋、そちも悪じゃのう」
「越後屋:いえいえ…、お代官さんほどでは…」
さらに検察に対しては、杏林大学割り箸事件、東京女子医大事件、
福島県立大野病院事件という、医療事故が刑事事件になっても、
担当医が無罪になった例を挙げて説明しました。
検察の仕事についても第三者機関で検証する必要性を指摘された。
杏林大学割り箸事件では、事故発生時には、担当医を問題視する
一方的な報道がなされたほか、無罪判決後もその論調が変わらない報道が
一部にあったことを挙げ、書類送検時の医師の実名報道をやめるなど、
メディアにも改めるべき点があると述べました。
そのほか、堤氏は、交通事故における訴訟の増加や
「二つの機構」が存在するという問題点も指摘しました。
以上の話を聴きながら、医療事故の調査報告書を巡って
行政、弁護、メデイアそれぞれに問題があることがよく分りました。
何となくでも、問題が複雑であることを知って頂ければ幸いです。