浜松医科大学医学部法学教室の大磯義一郎教授は、
「医師法21条の法的問題と医療事故調査制度への課題」
という演題で、田邉昇弁護士に続いて論じられました。
大磯氏も、田邉氏と同様に、2004年の東京都立広尾病院事件の
最高裁判決に触れ、医師法21条が合憲とされた理由について、
(1)(異状死体の届出は)公益性が高い、
(2)医師免許に付随する合理的負担、
(3)異状死体があったことのみの届け出である
と整理しながらも、いずれに関しても疑問を投げかけました。
たとえば、(3)については、都立広尾病院事件の場合、
院長は、医師法21条違反だけでなく、
「虚偽有印公文書等作成および同行使罪」で有罪になっています。
医師は、死亡診断書もしくは死体検案書の作成も求められ、
「異状死体の届け出のみ」では済まない状況にあるのが現状です。
実際、広尾病院事件の最高裁判決以降、医師法21条に基づく
異状死体の届け出やそれに基づく立件送致数が増加しました。
萎縮医療や“医療崩壊”が起きたのは、リスクを他者に「転嫁」
することができず「回避」する行動の結果だと説明されました。
ただし、福島県立大野病院事件の2008年の無罪判決以降は、
「裁判所の医療に対する理解が進展し、検察も無理をしなくなり、
司法と医療の相互理解」が進みつつあるとの見方を示しました。
大磯氏は、「悪者を作り上げて、徹底して責任追及するのではなく、
医療安全を進めていくことが、一般国民の最大の利益」と指摘しました。
医療事故調査制度の設計に当たってはWHOドラフトガイドラインに
準拠し、事故について報告する者に対する「不可罰性」と、
患者や報告者の個別情報の「秘匿性」を厳守する重要性を強調された。
医師自身が信頼できる仕組み作りのためにも、これら二つが重要であり、
厚労省令やガイドラインにも「不可罰性」と「秘匿性」が求められるとも。
特に課題は「出口」であり、遺族に対し、何を説明、
報告、通知するのかが最大のポイントになるとしました。
この5日間の記事は、一般の方はチンプンカンプンかもしれません。
しかし医師法21条と医療事故調の議論はこれからの日本の医療を
大きく左右する極めて難解で本質的な議論であるのでご紹介しました。