《1746》 施設入所者に見つかった胃がん [未分類]

少し前まで、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームの入所者さんの
在宅医療を頼まれることはほとんど無かった。
キックバックを渡さないからなのかなあ?と思っていました(笑)。

しかし少しずつ、施設の在宅医療を依頼されるようになりました。
診療報酬は昨年から4分の1に減額されましたがやり甲斐がある。
自宅の在宅とは、まったく異なる諸問題があり、勉強になります。

2週間毎に訪問診療(回診)に行くたびに、小さな変化を読み取ります。
いつ行ってもまったく同じという入所者は、稀です。
入所者同志のトラブルの仲裁に入ることもあります。

発熱や下痢といった急性症状以外に、たとえば食欲不振という
慢性的な訴えを介護スタッフから相談される場合がよくあります。
それが老化なのか、病気なのか?

胃カメラなどの検査をするかしないのかは、
当然、家族に相談して決めなければなりません。
遠くの家族に連絡をして、相談に時間を割きます。

家族がいない場合は後見人に連絡しますが、
彼らは医療後見はできないので、結局、医療と介護のスタッフで話し合うことに。
先日、80代の男性のケースでは、胃カメラをすることになった。

すると胃袋の出口近くに、数センチの進行がんが発見されました。
同時にエコーやCTも行いましたが肝臓やリンパ節に転移は無い。
切除すれば完治する可能性が充分ある段階の胃がんのようです。

さっそく家族全員を呼び、以上の事実と私見を説明しました。
そして手術をするか、しないか決めて欲しいとお願いしました。
というのも、本人は中程度の認知症があり、ヨチヨチ歩きです。

手術自体は比較的容易だし安全と思われます。
しかし胃袋を取ることが本人にとって本当に幸せなのか。
また入院を機に、完全寝たきりになる可能性も充分ある。

私自身も大いに迷うケースです。
もし自分の親だったら、とイメージしても簡単に結論が出ません。
もちろん家族には、一切の私情を挟まず、公平に話をしたつもり。

別に急ぐ訳ではありませんが1週間という考える時間を与えました。
一つの目安がある方が、集中して考えられると思ったからです。
1週間後、家族代表は「もう1週間待ってください」と言われました。

果たして、2週間後に家族が出した結論は。

手術をしない、という選択でした。

実は、私は手術をするのではないかと予想していました。
なんとなく、医者の勘でそう思っていましたが外れました。
紹介状の用意もしていたのですが・・・

しかし家族の結論は、手術をしない。

私は、家族はいい選択をされた、と心の中で思いました。

手術を受けて4年。
手術を受けないなら2年、だった、と仮定しましょう。

これは勝手な予測で大きく外れることもありますが、
そう仮定したとしましょうか。
あなたなら、あなたの家族なら、どちらを選ぶでしょうか?

2人に1人ががんになる時代。
当然、施設入所者の2人に1人は、がんがあるはずです。
しかし症状の無いがんを、わざわざ見つけることはしません。

しかしこのように「見つかってしまった」場合、丁寧な対応が求められます。
この方のように、手術をしないという選択も充分「アリ」なのです。
もちろん、痛みが出れば緩和ケアは介護施設でもしっかり行います。

介護施設でも、モルヒネの使用は可能です。
しかし認知症のある方は、総じて痛みがあまり出ません。
モルヒネを要する割合は、一般のがん患者さんより少数です。

がん医療で大切なことは
・本人のQOL(生活の質)をよく考えること
・充分な話合いの上に、納得のいく選択をすることです。

書店に並ぶ本は、二分化しています。
とことんがんを治療する本と、がん医療を全否定する本。
こうした極論本しか並んでいません。

それは、極論本しか売れない時代だからです。
肉を食べるな、いや食べろ。
米を食べるな、いや食べろ・・・・

「いったい、どっちやねん!」と言いたくなるのではないか。

真実、正解は、極論と極論の間にあります。
おそらく「ほどほど」が、一番なのでしょう。
しかし、その「ほどほど」が長寿社会でよくわからなくなっているのです。

患者や家族が賢くなることです。
信頼する医師とよく話し合うことです。
そして納得、満足する選択を探してください。

手前味噌で恐縮ですが、私が書く本に極論本は一切ありません。
常に“中庸”を意識して書いています。
たとえば「抗がん剤・10の『やめどき』」というがん小説もそのひとつ。

私は、こうしたプロセスこそが高齢者やがん医療に大切だと思います。
しかし、医者が忙しいこともありこのような手順が省略されがちです。
すると患者や家族の不満が大きくなり、医療否定本がバカ売れします。

患者さん側の情報は、圧倒的に医療者より少ないです。
だからと言って極論に盲目的に従うだけでは、騙された!と後悔もある。
極論本に惑わされず、良心的な本を探し、賢い患者さんになって欲しい。